「台湾有事議論」日本で抜け落ちている大事な視点 沖縄県民の避難や難民受け入れの議論がない
――なぜ日本では軍事の議論ばかりになりがちなのでしょうか。
有事に対する発想が貧困なのではないか。7月に沖縄県・与那国島と台湾・宜蘭とを結ぶ定期船の就航に向けて、台湾の立法院長(国会議長)が与那国を船で訪問し、台湾への帰路には日本の国会議員も同行した。このような船のルートは平時では観光や文化交流として役割を果たすが、有事では脱出ルートや支援物資の輸送ルートになる。
台湾側は脱出や支援も念頭にしていくはずだが、日本の与党議員の関心は中国に対する牽制になるということばかり。難民の受け入れや物資輸送を考慮してはじめて有事の対策といえるはずだが、日本ではそうなっていない。日本が集団的自衛権や個別的自衛権で、どこまで何をできるかの議論ばかりしている。
こうした議論は野党も同様だ。野党は、国が集団的自衛権を行使できないようにする理論を一生懸命に構築しようとしている。結局、革新・リベラル側はいかに戦闘に巻き込まれないかしか考えず、保守側はいかに戦うかしか考えていない。議論が戦争に偏っているうえに論点が局所的で、まったく現実的ではない。
沖縄は「戦場」となる
――戦闘に巻き込まれないことを考えるのも大事ではありませんか。
沖縄に住んでいれば、巻き込まれないということが不可能なのがわかる。2022年8月、当時の米下院議長のペロシ氏が台湾を訪問した直後に、中国は報復措置として台湾周辺で軍事演習を行った。その際、与那国島の沖合にミサイルが着弾した。それだけ台湾から近いので、有事になれば生活は成り立たなくなる。
直接的な戦闘行為がなくても、台湾近海を中国が封鎖すれば機雷が設置される。一部の機雷は海流によって沖縄周辺に流れるだろう。宮古・八重山諸島の生活物資はフェリーで島外から運ばれる。漁船や貨物船が安全に航行できなくなれば、一般人の命が危険にさらされる。
また機雷を例にあげれば、米軍が機雷除去作戦を展開する際には、自衛隊基地がある石垣島などが最前線基地になる。すると中国からは石垣島が米軍の最前線拠点と見なされて、攻撃される可能性が出てくる。さらに自衛隊が米軍の防護や後方支援を行えば、米軍が敵から攻撃されていないとしても、自衛隊が軍事作戦を行っていることを意味する。
沖縄にいる身からすれば、「重要影響事態」や「存立危機事態」などの法律の位置づけの問題ではなく、米軍が拠点として軍事作戦に使用すれば、そこはもう戦場であるということだ。一言でいえば、沖縄に住んでいると安全ではないことになる。
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