救世主か略奪者か−−中東オイルマネーのベールを剥ぐ

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サブプライム危機に揺れる米国は「安全保障上の懸念」から排斥してきた中東マネーに救われた。日本でも待望論が高まるが、年15%以上の利回り要求に応えられるか。
(週刊東洋経済2月9日号より)

アラブ首長国連邦(UAE)が、三菱重工業への大口出資を希望している--。昨年の暮れに飛び込んできたその情報は、経済産業省内に激震を走らせた。

年明けには、甘利明・経産相によるUAE訪問が控えていた。アブダビ、ドバイなど七つの首長国から成るUAEに日本は原油調達の25%を依存。さらに2012年以降、アブダビに日本企業が持つ自主開発油田権益が順次期限を迎えるだけに、UAEとの関係強化は大きな課題だ。

三菱重工は現在、YS11以来の国産旅客機となる「三菱リージョナルジェット(MRJ)」の事業化に踏み切るかどうかの正念場にある。アブダビの政府系ファンド(SWF)は資金需要が高い今こそ出資のチャンスと見たようだ。

ペルシャ湾岸の産油国は石油枯渇後に備えた産業育成、技術導入を急いでいる。最近もUAEはアレバ、トタルなどフランスの企業連合から原子力発電建設の提案を受けた。三菱重工が持つ原発関連技術も魅力的なはずだ。現在、産油国では原油を最大限に輸出するため、国内の電力需要を原発で賄おうとする動きが続いている。

しかし、三菱重工は日本の防衛産業の要であり、外国為替法による投資規制の対象となっている。同社株式を10%以上保有するには日本政府の同意が必要だ。三菱重工への出資に対して経産省では否定的な意見が優勢で、UAEからのオファーは人知れず封印されようとしている。

「略奪者」から一転、米国の「救世主」に

この数年の原油価格高騰を受け、05年以降、中東は世界最大の経常黒字地域となっている。1970年代から80年代初頭にかけて猛威を振るった「オイルマネー」の復活だ。

当初、米国はオイルマネーの動きに対して非常に警戒的だった。

05年11月、UAEの国有港湾管理会社ドバイ・ポーツ・ワールド(DPW)は英国の同業、P&O社を買収した。ところが、P&Oがニューヨークなど米国の主要港湾施設を運営していたことから、米国議会で安全保障上の悪影響を懸念する声が高まる。結局、DPWは06年3月に米国での港湾管理業務を米国企業に売却せざるをえなくなった。

その後2年を待たずして、サブプライムショックに揺れる米国はオイルマネーにすがらざるをえなくなった。「略奪者」が一気に「救世主」に転じたのだ。

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