救世主か略奪者か−−中東オイルマネーのベールを剥ぐ

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02年から06年までの湾岸協力会議(GCC)の加盟国6カ国(UAE、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア)の経常収支の黒字は合計1.5兆ドルに達した。そのうち1兆ドルが域内にとどまり、3000億ドルが米国、1000億ドルが欧州、600億ドルがアジアへ振り向けられたといわれる。70年代の反省を踏まえ、域内のインフラなど「国造り」につながる投資を優先する姿勢がうかがえる。

お手本がドバイの開発モデルである。UAEの中では、石油資源に恵まれ、連邦政府財源の約5割を拠出しているアブダビが頭一つ抜けた存在だ。一方、石油収入ではアブダビに遠く及ばないドバイは、湾岸地域における金融と物流のハブになることを国是とした。

その開発資金を得るため、ドバイは域内の投資家から集めた資金を元手に、借り入れでレバレッジを利かせて高利回りの運用をすることを選んだ。ソニー株の5%弱を取得したDICは、運用資金の60%が金融機関からの借り入れとされる。ドバイ系ファンドの活動は、ADIAなど石油収入だけで調達しているファンドに比べれば表に出やすい。その背景には、こうした調達構造の違いも影響している。最近は世界的な流動性低下の影響を受け、ドバイ系ファンドの活動にも制約が出ているようだ。

インドや中国で日本企業との事業模索

より保守的なアブダビのファンドも変わり始めた。ADIAは最近「戦略ビジネスユニット」という新部門を立ち上げ、ハイテク関連の企業への長期投資を開始した。アブダビはムバダラ開発という戦略投資のためのファンドも持っており、エネルギー産業や航空機関連などに投資している。ムバダラ開発は最近、JBICや日本貿易保険と提携、中国、インド、ベトナムなどでオイルマネーと日本企業の技術を活用する共同事業を模索中だ。

海外で日本企業がオイルマネーを活用することは「世界的な流動性が下がっている時期に資金調達上有利なだけでなく、産油国との関係強化にもつながる。まさに一挙両得」だとJBICの前田部長はいう。

そのためにはイスラム金融への対応も欠かせない。金利の受け取りなどイスラム法が禁じている取引を避けた金融システムは70年代に開発された。長らく中東でもマイナーな存在だったが、「湾岸戦争以降のイスラム・アイデンティティの高まりによって急速に広がった。金利をもらうことに後ろめたさを感じている人は多かったから、手段ができればどんどん普及する」(ドーハ銀行の木下宇一郎・東京駐在員事務所長)。現在では通常の銀行がイスラム金融専門機関に転換する例も増えている。JBICは、近くイスラム法に則した債券(スクーク)を発行するための最終準備に入っている。

大和証券SMBCが昨年11月、SWF向け営業の専門組織を新設するなど、日本への投資を期待した動きも出始めている。政府からも「日本にも(SWFの資金を)ぜひ入れたい。公共事業が減っていく中で、投資案件と資金を結びつけることが大事」(甘利経産相)というラブコールが送られている。

しかし、年間15%を超えるような期待利回りを提供できる日本企業がどれだけあるだろうか。湾岸諸国では先端医療、教育関連のビジネスへの関心が強い。彼らの投資を呼び込むためには、そうしたニーズに合致するか、彼らが価値あると認める技術を提供するかしかないだろう。冒頭の三菱重工のケースのような、大難問が飛び出す可能性も考慮に入れておく必要がありそうだ。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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