救世主か略奪者か−−中東オイルマネーのベールを剥ぐ

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サブプライム関連の引き当てで資本が毀損したシティグループは昨年11月、アブダビ投資庁(ADIA)から75億ドルの出資を受け入れた。ほかにもメリルリンチが年末にシンガポールのSWFであるテマセク・ホールディングスなどから62億ドル、モルガン・スタンレーは中国の中国投資(CIC)から50億ドル……。米国の金融システムはSWFからの流動性供給で何とか維持された。

シティは1月15日に第2回の増資を行い、シンガポールの政府投資公社(GIC)とクウェート投資庁(KIA)から125億ドルを集めている。結果的に米国金融システムの救い手となったことで、SWFへの警戒論が急速に退潮している。

シティがADIAに発行する出資証券は年利11%で、10年3月以降、4段階に分けて普通株に転換する仕組みになっている。年利11%というとすさまじい高利回りのようだが、ADIAの基準では決してそんなことはない。シンガポールのGICは創立以来25年間の平均利回りが9.5%だった。国際協力銀行(JBIC)の前田匡史・資源金融部長がその水準についてADIA幹部に感想を聞いたところ、返ってきたのは「低い」という一言だった。ADIAが通常の投資で目指す利回りは年間15%以上だという。

今回の米銀への一連の投資に関しては「金融システムの動揺によってこれ以上ドル安が進行すれば、世界経済の成長鈍化を招くと懸念した」(国際開発センターの畑中美樹・研究顧問)という意味合いが強いとみることができる。また、ドル安の進行は産油国にとっても資産の目減りにつながるため、歯止めをかける必要があった。

金融市場のプレーヤーからも「SWF、特に中東産油国のものはグローバルな金融市場の担い手になっている」(三菱商事の下山陽一・資金為替市場室長)との声が聞かれるようになった。

年明け以来の株安に悩む日本の資本市場でも、オイルマネー待望論が盛んに聞かれる。しかし、彼らの行動原理を知ることなしにすがるのは、ただの神頼みでしかない。

石油を金融資産に換え次世代に継承する

そもそも現在、オイルマネーの規模はどの程度なのだろうか。

マッキンゼーの調査によれば06年末には年金ファンドが21.6兆ドル、投資信託が19.3兆ドル。これに対してオイルマネーの規模は3.4兆~3.8兆ドルとされている。オイルマネーは12年までにさらに2.5兆ドル増えると予測されているが、金融市場の既存勢力と比べれば、その規模はまだ限定的だ。

1月23日、ダボス会議の席上、クウェート国立銀行のイブラヒム・ダブドゥブ総裁は、今後のSWFの規模拡大を予想しつつ、「湾岸諸国のファンドは政治的なプレーヤーではなく、石油収入の低下に伴い収入の多様化に努めているだけだ」と脅威論を牽制した。

湾岸産油国には、前回のオイルマネー全盛時代の「失敗」に対する反省がある。投資先が先進国、特に米国の金融資産と不動産に限られ、国内に蓄積が残らなかった。

原油価格が下がるとともに、経済力も失速。世界最大の産油国であるサウジアラビアも83年以降は慢性的な財政赤字に陥り、一時は5000億ドルもの累積赤字を抱えた。

湾岸産油国の資産運用の原点には石油収入を金融資産に置き換え、次世代に継承するという発想がある。それに加えて近年は、資源採掘以外の産業基盤を作るための戦略投資という発想が顕著になってきた。

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