紺のネクタイは全員が同じものを着けているように見えた。恐らくPR会社が全員分を用意し、会見当日のスーツとシャツの色「だけ」を指示したのではないか。衣装を整えての予行練習まで行う余裕がなかったのだと推察できる。
企業会見史に残る「迷言」が会見を失敗にした
肝心の内容だが、その「お粗末さ」については、すでに多くのメディアが伝えているだけに、もはや多くを語る必要もないだろう。
「現場に入ってよく見ておけばよかった」「(不正を働いた社員に対し)刑事告訴を含む厳正な対処をしたい」など「経営陣も被害者」と言わんばかりの発言で、兼重社長は自身を含む経営陣の関与を完全否定した。ツイッターでは「社員のせい」がトレンド入りするなど、批判は激しさを増した。
さらに兼重社長の「極め付け」とも言える発言があった。ゴルフボールを靴下に入れて車に叩きつけて傷を広げていた不正に関して、「ゴルフを愛する人への冒瀆ですよ」と声を荒らげたのだ。あまりにピントの外れた発言は、企業広報の歴史に残る「迷言」となったのではないか。
さて会見の「ドタバタ」や「お粗末さ」を指摘した後だが、ビッグモーターの今回のPR会社の選定自体は正しかったと思う。
わかりやすさを優先するため、多少の誇張含みで言うなら、ほとんどのPR会社は「今、わらび餅ドリンクが流行ってます!」といったトレンド情報をメディアに売り込むことに日々、躍起となっている。ほとんどのPR会社の日常業務の延長線上に、今回のようなシビアな「危機対応」は存在しないのだ。
加えて、PR業界にはそもそも報道経験者が少ない。例えばテレビで言うと「番組制作経験者」は散見する。だが、ほとんどが制作会社での勤務経験で、シビアな報道の経験がないのだ。
今回のビッグモーターの不祥事のように国交省、警察、金融庁、あるいは内部告発者などへの取材はテレビ局の報道局社員が担う。扱いに細心の注意を要する情報だけに、「社外」には委ねられないからだ。
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