最高級スーツテーラー、「職人の再生」へ挑む どん底人生を変えたのは10個目の事業だった

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「年商がたったの80万円です。事業がまったく回らないので、銀行も貸してくれなくなり、不健全な消費者金融からもおカネを借りる。こうして、借金が雪だるま式に増えていったのです。毎日、妻におにぎり3個と1リットルの麦茶を作ってもらい、オフィスのある恵比寿まで自転車で行く生活。使えるおカネも毎月400円で、牛丼屋で牛丼を食べている人を見ても、なんで自分は食べられないのだろうとイライラしました。そうなると、人はおカネをどう稼ぐかしか考えられなくなってくるんですよね」

生活が苦しく、借金も増える一方

最初は若手アーティストが世に出ていく手助けをしたい、という思いを持って起業した松井さんも、借金が増え生活が苦しくなるにつれ、とにかくおカネのことしか考えられなくなっていきます。そこで事業をやめるという選択肢もあったはずですが、逆に何とかしたいと、さまざまな事業に手を出していくのです。

「会社の状況が苦しくなってから、さまざまな事業に走りました。誰かのためというよりおカネのためです。ペットの写真サービスを始めたり、環境問題が騒がれれば環境のフリーペーパーを作ったり、アイスのジェラートを作っている営業さんと知り合えば、ハーゲンダッツを超えるアイスを作ろうと走ったり。今では、なんであんなことをしていたのだろうと……。考えられないですね」

さまざまな事業に手を出していった結果、気がつけば事業数は9つにもなっていました。しかし、ひとつの事業もうまく行っていない中で、いくつもの事業を始めたところで、会社を立ち直らせるのは難しいのは明らかです。起業当初から一緒に事業を進めてきたメンバーも当然のように、一人、また一人と辞めていき、最後に残ったのは途中から参画してくれていた松井さんの弟・陽介さんでした。

「当初の仲間は皆辞めていきました。逆に、さまざまな事業拡大していたときに弟が入ってきてくれた。兄貴が地元に帰ると輝いて見えると言ってくれたのです。僕ら前世も繋がっていたんじゃないかというくらい、昔から仲が良かった兄弟でした。とてつもない信頼関係があって、一緒にやってきました。弟がいなければ、絶対に今はありません」

支えてくれる妻の存在、そして事業のパートナーとして残ってくれた弟さんの存在は、松井さんの大きな支えになっていました。しかし一方で、9つの事業はいずれもうまく行かず、大きな借金とともにビジネスをたたむのは、時間の問題でした。

人生を変えるきっかけは10個目の事業だった

しかし、こんな最悪の状態で始めた10個目の事業が、松井さんの会社、そして人生を、大きく変えることになります。それは、ふとしたきっかけで、松井さんが自分自身のスーツを仕立てたことから始まります。

「今やっている9つの事業の営業活動のために、自分の営業用のスーツを作ろう、ということになったのです。もうこれが最後、身なりを整えて営業活動をすれば、何かが変わるかもしれないって思いました。しかしこれが、ビジネスを変える偶然の出会いになったのです」

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