最高級スーツテーラー、「職人の再生」へ挑む どん底人生を変えたのは10個目の事業だった

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「お願いしていたスーツがなかなか上がってこない、と思っていたら、縫製をお願いしていた職人さんが亡くなっていた、ということがありました。職人さんがいなくなる、という認識はそれまではありませんでしたが、改めて工房を見てみると職人さんの平均年齢が70歳。いくらいいスーツをお客様に提供したいと思っても、職人さんがいなくなったらできなくなる。その時に決まった理念が『職人再生』だったのです」

見つけた理念を徹底したことが、事業を発展させた

こうして見つけた理念が、松井さんの行動を大きく変えることになります。そして松井さんの行動の変化が、「DOT・TAILOR」の提供するプロダクト、サービスも大きく変えることになるのです。

【お知らせ】 マザーハウスでは、本連載のテーマ「挑戦者たちの朝」に合わせてマザーハウスカレッジを行っています。次回は、「アーティストにとって挑戦、成功とは何か?ニューヨークを舞台に活躍するアーティスト、大山エンリコイサム」というテーマで、芸術家・大山エンリコイサムさんをお呼びします。詳しくはこちらをご参照ください。

「まだ『DOT・TAILOR』が軌道に乗り始めた頃だったので、リスクは大きかったと思います。でも、職人再生を理念とする以上、それに従ったことをやらないといけない。発注先も、すべて手縫いで仕立ててくれる世界最高レベルの工房に集約しました。そして、お客様にも業者さんにも、職人再生を目指します、と言い続けました。もちろん最初は、本気でそう思っているのか?そんなことを言う人はいない、という反応が多かったです。ただ、皆さんに話すようになった結果、仕事に対するプライドがさらに強くなりました。そのプライドが行動も変えてくれたと思います。自信を持って行うからスーツの説明も変わる。お客様にもそのプライドを正当な価格で買って頂きたい、という説明に変わって行ったと思います」

その結果、「DOT・TAILOR」立ち上げ時には7万円から仕立てていたスーツも、現在は23万円からとなっています。これだけを見ると、今までのお客様を失いかねないアクションに見えます。確かにただの値上げだったら、うまく行かなかったでしょう。しかし、その裏にはぶれない理念があり、お客様に提供するサービスや店構えなども最高のものを提供するという軸があったからこそ、お客様は徐々に増えていったのです。そして、今では各界の著名人4000人を顧客に持つ、日本を代表する高級オーダーメイドスーツサロンにまでなったのです。

思いを口にするというのは、とても勇気を必要とすることです。しかしながら、思いを口にすることで、自らの行動が変わり、周りが変わり、応援者が増え、気づくと仲間が増えているという流れを生むことがあります。もちろん、そこには努力が必要です。松井さんからは、終わりがないくらいのスーツの知識があふれ出てきます。理念や思いを口にする裏には、それだけの勉強量に裏打ちされた自信があるということです。

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