「愛情不足のまま育った子」が大人になり陥る末路 親に余裕がない中、ひずみが子どもに向かう

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非行少年の中には、虐待を受けてきた少年たちが多くいます。虐待から逃れるために非行に走るケースも少なくありません。これは「虐待回避型非行」と呼ばれています。家出だけでなく、そのための原資を獲得しようと金品を持ち出したり、万引きしたりといったことを含みます。

これだけでは終わりません。当初の目的が薄れて、次第に非行が本格化します。遊びのために家に居つかなくなる、金品やスリルを求めて万引きを繰り返すといったように目的が変化し、刺激や快楽を求めた非行に移っていきます。

彼らにとって、家よりも非行集団の中にいるほうが心が安定します。お互いに傷をなめ合うような関係性であっても、そちらのほうがいいのです。家庭を回避する以上に、積極的な気持ちで非行集団と関わるようになります。

以前、全国の少年鑑別所に収容されている少年を対象に「心理的距離」の調査を行ったことがあります。SD法という心理学的手法により、父親、母親、きょうだい、友だちなどについて心の距離を調べたところ、家族よりも友だちのほうが心理的距離が近いという結果が出ました。

「家族はわかってくれる、自分を認めてくれる」「家族には何でも相談できる」と思えるような家族が本来だと思うのですが、彼らにとってはそうではないのです。むしろ、非行集団にいる友だち、親友を頼りにしており、大切に考えています。

暴力団がイメージしやすいかもしれません。絆の強い「疑似家族」が作られており、家族のためなら何でもできるというくらいになります。

私は暴力団メンバーの心理分析もずいぶんやりましたが、組長のことを「親」と呼んで慕っている姿をよく見ました。親のように指導してくれたことがうれしく、「こんな自分の面倒を見てくれた親のためなら、何でもします」と言うのです。場合によっては、敵対集団を1人で襲撃するヒットマン役を買って出ます。

非行集団に入る少年たちは、その集団が悪いことをやっているのはわかっています。危険なことをしていると知っています。でも、家よりこっちのほうがいい。そう思う気持ち自体は、わからなくありません。

愛情飢餓状態につけこむ「犯罪の誘い」

保護者からじゅうぶんに愛情を得られないまま育つと、愛情飢餓状態が続きます。愛情飢餓状態では、ごく普通のやさしさにも過剰に反応し、強く惹かれやすくなります。

そもそも、無関心な親に育てられた子はコミュニケーションに問題を抱えていることが多く、「誰からも相手にされない」と孤独感を強めています。そんなときに、やさしくしてもらったら……。社会的な視野も狭いので、「この人しかいない」「この人のためになら何でもできる」と思うことさえあるのです。

プロ犯罪者からすると、ちょろい相手です。やさしい言葉をかけて疑似家族や疑似恋人のようになり、ここぞのときに犯罪の手先として使います。なんと悲しいことでしょう。

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