1泊10万円でもすぐ埋まる「箱根バブル」の現状 インバウンド客が訪れ、タクシー利用は1時間待ち

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仙石原の周辺は、箱根の中でも特に評判が高いグルメが集まる地域として知られている。日中から夕方にかけては、この辺りを歩く外国人観光客の姿も散見された。

老舗の寿司屋に入ると、18時過ぎにもかかわらず、すでに席はほとんど満席だった。帰り際にイタリアから来たという男性に話しかけると、「宿から40分歩いてきた。タクシーが捕まらなかったので帰りも歩くよ」と冗談めかして笑った。

店主の男性がいう。

「最近の箱根はちょっと“異常”な状態ですよ。町を歩くと、そこらじゅうで海外の方に会う。もはや外国にいるような感覚です(笑)。当店はもともとは地元客が多かったのですが、今では3、4割がフラっと入ってくる外国の方になりましたね。

宿の人と話しても、少し観光地から外れているこのエリアで宿泊代を上げても宿泊者が増えていると。ただ、それをあまりよく思わない地元の方もいて、難しい面もある。飲食店からしても、もう少し何とかできないのかなと思います」

箱根ロマンスカーの終着地であり、始発地でもある「箱根湯本駅」のタクシー乗り場を訪れると、日中は全ての車が出払っていた。夜の21時頃に戻ってくると、乗り場には3台ほどのタクシーが待機しており、ドライバー同士が談笑していた。

夜9時過ぎ、タクシー乗り場には3台が待機していた(筆者撮影)

この町で長年タクシードライバーをしているという田村さん(仮名・60代)がため息交じりに打ち明ける。

「お客さんからも、なぜ箱根はこんなにタクシーが捕まらないのか、ってよく怒られるんですよ。それほど日中タクシーを利用するのが難しい。ドライバーからすれば、ほっといてもそれなりに売り上げが立つし、昼間は東京や横浜よりもやりやすい。しかし、利用者はタクシーに乗りたいのに乗れないというストレスはたまるでしょう。本来、バスや電車でカバーできないところを担うのがタクシーの役目。だから今の状態は、喜ぶに喜べない複雑な心境ですよ」

それでも、解決策がないというのが現状だ。「結局、ドライバーの成り手がいないから、営業したくてもできないわけ。会社も採用しようとしているけど、難しいみたい。地方や東京でドライバーをやるよりも、今の箱根はいいと思うけどね……」

観光地、また別荘地としての価値が高まっている箱根。それでも、バブルゆえに起きたタクシー不足問題は、今後も旅行者や住人を悩ませ続けることになるかもしれない。

栗田 シメイ ノンフィクションライター

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くりた しめい / Shimei Kurita

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

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