「男性の役割」を普通に受け入れることへの違和感 白岩玄×田中俊之が語る「男性の生きづらさ」

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白岩:実は20代の半ばぐらいからずっと男性の話を書きたいと思い続けていたんです。でも当時は男性の感情を書くのが恥ずかしくて。強がっていたところもあると思います。だから男性が主人公であっても、男性としての悩みでなく、誰でも経験する普遍的な人間の悩みとして描いたりしていました。

その後、5年間ほどたってようやく書けるようになったのは、結婚し、妻が「男らしさなんてどうでもいい」という考えを持っていて、夫婦のどちらが外で働くとか、運転するとか、育児や家事をするとか、そういうことを気にしない人だったことが大きいです。妻のおかげで自分の背負ってたものを降ろせたように思います。

白岩玄さんにオンラインでお話を聞きました(編集部撮影)

そうすると自然と男の弱い部分も書いていいんだ、と思うようになってきて。そういった自分の内面の変化と小説のテーマとが一体となって書けたのが、『たてがみを捨てたライオンたち』でした。

書き上げた時に、男性というテーマでもっと書きたいという気持ちが湧いて、『プリテンド・ファーザー』につながりました。これまでは1つ書き上げたらそのテーマは終わりにしていましたが、『たてがみ』を書いた時に、男性というテーマはまだ下に何か埋まっているという感覚があったので、3部作にする構想を描き、現在3作目を書いているところです。

田中さんは男性学という学問の道を進もうと決めたきっかけがあったんですか。

この社会で期待されている“男性の役割”

田中:大学で社会学を専攻していた時すでに、毎日スーツを来て同じ時間に家を出て、同じ会社に行って、混雑する店で昼食を食べるという生活が自分には無理だと感じ、大学院進学を決めたんです。今振り返ってもやはり無理だと思いますね。

昔から、この社会で期待されている男性の役割になじめないという感覚を持っていました。なのに、自分がこれほど違和感を持つものを「普通の人」は受け入れて生きている。それが不思議だったので、その謎を解きたいという思いが出発点です。

今の日本の男性の生き方は古来のものではなく、高度経済成長期に生み出された常識です。ごく短期間にこんな常識を国民に浸透させた日本社会について、社会学という学問を通じて自分なりに納得したかったんです。

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