公立高校入試における合格者の決定は、学校教育法の施行規則によりそれぞれの校長が許可することになっている。だが、前述の実態調査により、定員内不合格者については(1)都道府県との申し合わせにより、原則として出さないようにする(2)定員内不合格者が出るときは、教育委員会との協議を要する(3)高校校長の判断に委ねられている、という3種類の対応がある。
公立高校入試制度の歴史的背景
その理由は、公立高校入試制度の歴史的変遷に見られる。
文科省の資料(*3)によると、戦後10年あまりは基本的には「志望者全員入学」で「定員超過の場合は学力検査(以下、固有名詞以外は試験)による選抜を認める」となっていた。1950年には「募集人数から定員割れした場合は全員入学を許可する」という通知も出た(*4)。
だが、1963年、第1次ベビーブームの子どもたちが高校入学者年齢になったことで、前年の1.5倍の人数に増えて教室が足りなくなったので、「入学者を選抜する方針」に変更された。選抜の目的は「高校の授業を受ける資質と能力があるかどうか判定する」となり、「適格者主義」と呼ばれた。
しかし、この適格者主義は「学力の低い生徒を切るな」と社会から猛烈に批判された。このため、1984年に高校の進学率が94%に達したこともあり、同省は、高校入試は教育委員会と高校の責任と判断で実施するとして、その際「一律に適格者主義を前提としなくてよい」という趣旨の通知を発出し、方針を変更した。この経緯から、定員内不合格の判断に前述の3種類が出てきたようだ。
その後も公立高校入試は何度も改革があり、現在では試験の点数だけでなく、中学時代の活躍や高校進学への意欲を面接でアピールするなどで合否を決定するようになっている。
都道府県の「高校入学者選抜実施要項」はホームページで公表されている。それによると、大阪府は合格者決定方針として、1998年から「合格者が募集人数を満たさない場合は、総合点(筆者注:試験当日の点数、調査書、面接など)の高い者から順に募集人数を満たすように合格者を決定する」と記載している。
つまり、教育委員会が定員内不合格を出さないと書面で方針を公表し、高校に周知を徹底している。東京都でも同様の記載がある。
一方、定員内不合格を出している複数の県の「高校入学者選抜実施要項」には、その一文の記載を確認できなかった。大阪府教育庁教育振興室高等学校課学事グループの鈴木雅也主任指導主事(40)は、こう説明する。
「大阪府では、2000年から特に入学者選抜実施要項の冒頭に重要な指針として『入学者選抜は、(中略)基本的人権を踏まえ適正に実施する』の一文を記載しています。大阪府では『基本的人権の擁護』を重要視しているため、高校向け説明会では、最初にこの点を強調します。そして、進路の決定権は本人にあると考え、本人の希望があれば受験や入学の機会を保障していくことを前提に入試に取り組んでいるため、定員内不合格を出していません」
しかし、他県では公立高校入試の実施要項に前述の一文が記載されていても、高校校長の判断で「入試の点数が低いから」「面接で勉強する意欲を感じられないから」と、つまり適格者主義を理由に、定員内不合格者を出すことがある。
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