社会には「高校は小中学校とは異なり義務教育ではないため、高校を卒業できない可能性が高い生徒まで入学させる必要がない」という風潮もある。
しかし、現在は高校進学率が約98%に達しているだけでなく、2020年からは保護者の所得によっては、実質的に授業料が無償化される制度もできた。つまり、事実上は義務教育のような状態といえる。
高校を卒業できる可能性があるかどうか、ではなく、入学後に子どもの学びの保障を受けることは人権保障にもつながる。「高校は義務教育化すべきである」という意見も出ている。
また、定員内不合格者がいるにもかかわらず、定員割れしているという理由で、他県から生徒を募集している公立高校もある。 だが、公立高校では生徒の募集定員決定後、税金で教員などを配置する。このため、「公立高校で定員割れしている場合は、志望者全員を受け入れるのが公立高校の責務ではないか」という声が高まっている。
定員内不合格が起こる一番の障壁
舩後議員はこう話す。
「定員内不合格が起こる一番の障壁は、現場の校長や教員が高校生としてあるべき姿にとらわれ、もっとも教育を必要とする落ちこぼされてきた生徒や点数の取れない生徒、コミュニケーションを取りにくい生徒などを『高校に入学する資格がない』と拒もうとする意識です。地域や学校からその子たちを排除することにもつながります」
元高校教員で、 千葉県で障害のある生徒の高校進学を支援している「千葉『障害児・者』の高校進学を実現させる会」代表の佐藤陽一さん(63)は、多様性のある生徒が高校へ進学することの重要性をこう指摘する。
「経済的な理由で学力が低い、親から虐待されている、障害があるという理由で高校に入学できない生徒を長年指導してきました。そういう子どもたちは同年代の人と過ごす経験値が足りなくなるため、その後の人生を自信を持って生きることが難しくなり、自己否定や劣等感を抱くことにつながる傾向が見られます。人生で大切なことは居場所があることと、社会とどうつながりを築いていくかです」
障害のある生徒が地域の公立小中高校へ進学するための支援団体は、千葉県以外でもあり、1980年代から教育委員会と団体交渉してきた。当時から、障害のある生徒が定員内不合格になる事例が少なくなかったからだ。
この団体交渉の成果として、全国の教育委員会の考え方が変わってきたという歴史的経緯もある。
入学を認めない理由の1つに「高校を卒業できない可能性が高い」という点があったが、一方、 中退者を出さないよう、授業のカリキュラムを工夫している高校もある。
大阪府では、2015年から府内の一部の高校を「エンパワメント(生徒の力を引き出す)スクール」に指定している。前述の箕面東高校もその1つで、中学校までの主要教科の学びが不十分でも、習熟度別の少人数制授業で学び直しができる。
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