「41歳で逝ったBL漫画家」明るく描いた闘病の軌跡 実父からの虐待の過去と大腸がんと向き合った

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ひるなまさんの闘病アカウント(@hilnama_PG12)の存在は知っていたものの、生前はあえて距離をおいていた。没後の保守をきっかけに初めてじっくり読みこんでみると、「この中に、妻が生きているように思えました」という。

「正義感が強く、他者への労りの気持ちを持ち、時に奔放でスケベでいい加減で、自由を好み、潔く、明るい。そしてオタクであり、美味しいものを食べるのも作るのも大好き。このあたりは、現実もTwitterも変わらないと思います」

生前から「Twitterは目にしたくないものを避けにくいから」と話していたという。常に広い視野を見通して、周囲に負担をかけないように振る舞う。同じ病気と闘っている人が多くフォローしていることも考えて、悲痛な感情の吐露を抑えるように徹底していたのも、ひるなまさんらしい。

心を鬼にして両親の壁に

「ひるなまの夫」さんもひるなまさんを守り続けた。闘病中にひるなまさんの両親の問題に壁となって立ちはだかったのは「ひるなまの夫」さんだった。その経験から、闘病時に患者を守るためにすべきことをまとめてくれた。

「私たち夫婦のように、患者側の家庭に虐待などの複雑な事情があるなら、以下の3点が大切です。

1.たとえ家族であっても、会わない、余計なことは知らせない。

2.抱え込まずに相談する。

3.ソーシャルワーカーやがん相談支援センター、訪問サービスを活用して問題のある家族の出る幕を与えない」

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何より患者のQOL(生活の質)を第一優先に考えること。自分だけで判断して抱え込まずに、適切な専門家を見つけて相談し、適切な機関の協力を得るようにする。実際に、心を鬼にしてひるなまさんの両親からのアプローチを遮断した。入院した病院でもひるなまさんの両親からの面接はブロックする措置を常にお願いしていたという。

ひるなまさんの没後、告別式への参列だけは認めた。その後、本籍地の役所に「婚姻関係終了届」を提出しており、今は関係を完全に絶っている。

血縁の濃さと信頼関係は必ずしもイコールではないが、有事ほど血縁が優先される制度がどうしても目立ってしまう。そこで標準のレールから個々に最適なレールにカスタムしていくのは普通ではない手間と覚悟を要する。「ひるなまの夫」さんは家族代表としてそれをやり遂げた。そして、夫婦の人生はこれからも続いていく。

<「この本、読みたいって言ってたのに…持っていたのに」と泣いていたら、足音がした。
 「泣いてるのバレる。我慢しなきゃ」と堪えた。
 それでもボロボロと溢れてきた。気が付いたら、後ろから、ふわっとぎゅーっと、抱きしめてくれた。温かかった。 
 あんまり温かくて、目が覚めた。
 まだ温かい。>
2023年4月10日)@hilnama_danna/ひるなまの夫 「末期ガンでも元気です」ブログ書いてます
古田 雄介 フリーランスライター

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ふるた ゆうすけ / Yusuke Furuta

1977年生まれ。元葬儀業のライターで、キャリアは15年。デジタル遺品や死後のインターネットコンテンツの行方などを追っている。著書に『故人サイト』(社会評論社)、『中の人』(KADOKAWA)など。

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