哲学とは、「反社会・非社会的営み」である

論文を書かずとも、血肉になる哲学はできる

(写真:益永淳二 / PIXTA)

最近、この連載を読んで「哲学塾」に申し込む人が少なくないので、今回は潜在的入塾希望者のために、「哲学塾」とはどういうところか、語ることにしましょう。

簡単に言えば哲学をするところなのですが、私なりの考えがあって、たぶんわが国で(いや世界でも)唯一独特の哲学をする場所ではないでしょうか?

とはいえ、もちろん私は、多くの大学に哲学科があることは知っていますし、その一部ではホンモノの哲学をホンモノの哲学者が教えていることも知っています。しかし、そこでの主目的は、将来哲学でメシを食うことができる哲学研究者を養成することであって、その目的から逸れた人には、向いていないのです。

論文を書かなければ、哲学業界で生きられない

具体的に言うと、大学の哲学科の教育は、(1)古典をはじめ大量の文献を解読し、(2)哲学的議論のスキルを学び、(3)哲学論文の書き方を習得する、という3点セットから成り立っている。だから、来る日も来る日も、教授は学生たちに「そんなこと、どの文献のどこに書いてあるのか!」とか「きみが何を言いたいのか、まったくわからない!」とか「これで論文か!」とカツを入れて、専門家に仕上げようとするのです。

この3つの能力がすべて欠如している学生は、どんなに「深い」ことを考えていても、まず研究者としては生きていけない。まあ、これは当然として、(1)と(2)が優れていても(3)がないと生きていけないのも事実です。有名大学の学生は、(1)と(2)の能力ならふんだんに持っているので、哲学研究者としてやっていけるかどうかの分かれ目は(3)にある、と言っても過言ではない。

つまり、どんなにカントやフッサールやヴィトゲンシュタインの書いている内容を正確に理解しても、どんなにスマートな哲学議論を展開したとしても、さらにどんな反論をも見事に蹴散らしたとしても、論文を書かなければ、まず大学院には受からず、どこにも就職できず、哲学業界では生きていけないのです。

たまに(1)と(3)は充分にあっても(2)に関しては恐ろしく乏しい研究者を見かけます。つまり、議論をしても支離滅裂で何を言っているのかわからない、あるいは、「カントはこう言っている、ハイデガーはこう言っている」と繰り返すだけで、自分の意見がまるでないような研究者もいますが、(不思議なことに)それでも立派に大学教授の職をつかんだ人はわんさといます。

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