ロシアによる核恫喝を拒否するために必要なこと ウクライナと同じ非核国の日本のG7での役割

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第1に、侵攻段階における戦術核の使用は、ロシア軍自らにも不利益をもたらす可能性のある手法である。限定的とはいえ核を投射した地域を乗り越えて領土確保のため侵攻作戦を継続すれば、自軍にも大きな被害が生じる可能性があるからだ。

核爆発による地形の変化等の影響で自軍の機動力が低下し、戦域における形勢を有利なものにできない可能性もある。

第2に、現在の陸上戦闘で主流となっている地理的に分散した戦い方の中で、戦術核投射の効果がどれほど出るかも疑問が残る。すなわち、精密誘導兵器や情報収集に関する技術の進歩により、通常兵器による火力の効率性が向上した現代戦においては、精密火力の標的とならないよう、部隊の生存性を向上させるための取り組みが不可欠となってきた。

その一環として、部隊の1カ所への集中をなるべく避けた、地理的に分散した戦い方が顕著になっている。例えば、ウクライナ軍の戦い方として、伝統的な陸軍で数千人規模の旅団が担当する広さの地域の戦闘を、数百人程度の大隊が担っているとの指摘もある。このように分散展開した敵を戦術核によりピンポイントで無力化するのは、集中して殺到する戦力を撃退するのと比較して容易ではない。

もっとも、仮にロシアが国境線付近まで後退して追い詰められた場合、ウクライナ軍の阻止のため戦術核を使用する可能性はある。しかし、消耗戦により追い詰められた状況で核を使用したとしても、それを攻勢に転じる契機として活用できるだけの体力がロシア侵攻部隊に残っているかは疑わしい。

「戦略抑止力」としての戦術核

しかし、これらはあくまで戦術核を、戦場で相手の軍事力を削ぐために使用する「拒否的抑止力」の延長線で位置付けた場合の分析である。一方、戦術核を、高威力の戦略核使用の前段階において、対価値(カウンター・バリュー)、対都市(カウンター・シティ)攻撃の手段として用い、相手に耐えがたい損害を与えることを予測させる「懲罰的抑止力」の延長線上で位置付けるとしたら、結論は少し異なり得る。

ロシアが2014年に発表した軍事ドクトリンでは、ロシアが直面する軍事リスクの一つとして、外国の精密誘導兵器による「戦略的非核システム」の配備が掲げられるとともに、ロシア自身も精密誘導兵器の使用を戦略抑止の手段として想定する旨規定された。このことは、ロシアが通常弾頭のミサイルを、戦場における軍事的効果のみならず、政治的脅威を与えるための手段としても位置付けていることを示唆している。

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