このため、現下のアメリカの核に関する発信や態勢のみでロシアの核使用を抑止し続けることは、現実的には不十分かもしれない。そうであれば、ロシアの核恫喝に抗し得るウクライナ自身の戦いと、それを支える武器援助という通常戦力のレベルにおける努力との組み合せが不可欠となる。
そのためには第1に、万一戦場で核が使用された場合にもその容易な標的とならないよう、ウクライナ軍は、これまで以上に地理的に分散した戦力配置と機動的な戦い方を重視しなければならない。また、現在断続的に行われているロシアによる対都市ミサイル攻撃が軍事的はおろか政治的にも効果を与えないことを、前線の反転攻勢によって示し続ける必要がある。
第2に、西側諸国は、ウクライナの戦場における戦いを支えるための武器援助に加え、対都市限定核使用の可能性も見据え、首都キーウなどの戦略要衝へのペトリオット地対空ミサイルの集中配備を進め、損害限定の態勢を築くべきである。
中国に対する抑止力にもなる
加えて、将来への示唆として、アメリカの非戦略核の態勢がDCA搭載核爆弾とSLBM搭載低出力核のみで十分なのか、議論を本格化させるべきであろう。そのような中間的な核戦力の充実は、核も搭載可能とされる中距離ミサイルを充実させ、今後その核弾頭の低出力化を進める可能性のある中国に対する抑止力にもなる。
アメリカ等の核保有国による武器援助および核抑止についての取り組みの強化は、単にウクライナを支援するためのみならず、自らが特権的地位を有するNPT体制の擁護にも貢献する。ロシアの核使用を拒否できなければ、それを目の当たりにした非核国において、核保有の議論が高まる可能性もあるからだ。
そして、日本政府がNPT体制の維持・強化を掲げるのであれば、G7広島サミットにおいて、核廃絶に至っていない現状を踏まえ、ウクライナ援助やアメリカの核抑止力の切れ目ない保持が、NPT体制の維持にとって重要な意味を持つことを想起させるべきである。
日本は、G7の一員としてウクライナ援助を行う主体であると同時に、ウクライナと同じ非核国として、冒頭で触れた消極的安全保証に対する核保有国の責務を改めて問う立場にもある。
(小木洋人 アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)/地経学研究所 主任研究員)
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