ロシアによる核恫喝を拒否するために必要なこと ウクライナと同じ非核国の日本のG7での役割

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また、ウクライナ戦争においては、ウクライナ東部や南部の前線における戦闘とは無関係な形で、断続的にウクライナの主要都市、特に、民間施設を標的としたミサイル攻撃が行われている。これは、攻撃対象を軍事目標に限るべきとする軍事目標主義の原則を意図的に逸脱することにより、戦場で軍事的には挫けないウクライナの戦争継続意思を、政治的に挫こうとする意図の表れとも捉えられる。

仮にこのような対都市ミサイル攻撃がロシアの「戦略的非核抑止」の発露であるとすれば、その延長線上に、低出力の戦術核の対都市・対重要拠点使用という選択肢が控えている可能性も排除できない。

この点、戦術核の搭載手段の一つとして想定されるイスカンデル地対地ミサイルは、その射程が500km弱にとどまるため、ベラルーシに配備した場合、東部や南部の主要な前線にはほぼ届かず、戦場への核投射手段としては期待できない。しかし、そうした手段も、首都キーウやNATO諸国からの武器援助の輸送経路への政治的脅威の手段として捉えれば、一定の合理性を持ち得る。

そして、そのような核使用の脅威を与えることは、核抑止力の目的として、軍事活動のエスカレーション阻止や受け入れ可能な条件での停止を掲げるロシアの核ドクトリン(2020年に発表)の記述とも整合的である。

ロシアの核使用を拒否するために必要な取り組み

非核国ウクライナは、ロシアの核恫喝を核によって抑止することができない。このような状況で、ロシアの核使用にどう対処すべきか。

直接的な手段は、アメリカが核を含む戦力により報復する意思を示すことである。しかし、同盟国でないウクライナを支援するため通常戦力のレベルでも武力介入を行ってこなかったアメリカが、核のレベルに至って介入できるのか、そして、NATO欧州同盟国への核反撃のリスクを冒してまでそれを行う判断が可能かといった観点を踏まえると、そのハードルは極めて高い。

そして、そのハードルの高さは、抑止の信憑性を低下させ得る。また、1900発にも及ぶ非戦略核と多様な搭載手段を有するロシアに対し、アメリカの非戦略核は、核・非核両用航空機(DCA)搭載核爆弾と潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)搭載低出力核に限られる。

DCAはロシア防空ミサイルの脅威や地上駐機時の攻撃に対して脆弱となる可能性があり、SLBM搭載低出力核は数に限りがあるとされる。非戦略核のレベルで米露の能力が必ずしも均衡していない状況においては、ロシアの核エスカレーションを抑止する効果にも疑問が生じ得る。

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