「生活困窮者を入居→転売」貧困ビジネスの正体 自治体から門前払いされた63歳男性が餌食に

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東京で生まれ育ったカズヒコさんは高校を卒業すると、飲食店に就職した。その後、板金工場や運送会社で正社員として働いた。自ら中古車販売を手掛けたこともあったという。

ただ最初に勤めた飲食店は見習いという理由で月給はわずか10万円。正社員時代はいずれも社会保険は未加入だった。一方で中古車販売をしていたころはバブル景気のさなかで「50万円で仕入れた車が100万円以上で売れることもあった」。

しかし、40歳を過ぎてからは小売店でのアルバイトや警備員、工場派遣、廃品回収など低賃金で不安定な仕事が増えていった。長引く不況の中、仕事や住まいを失うなどして何度か生活保護を利用することもあったという。

カズヒコさんは「バブルでおいしい思いをした世代だから、自分にも悪いところがある」と自己責任論を口にする。とはいえ法律を守らない会社や、雇用を流動化させただけで再就職のための教育研修や能力開発については力を入れてこなかった国の雇用政策にも責任の一端はあるのではないか。

住所不定では仕事を見つけられない

一方でカズヒコさんは生活保護行政への不信感が根強い。制度にのっとった適切な扱いを受けたことがほとんどないからだ。

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自治体の担当者から無料低額宿泊所への入居を強いられ、劣悪な食事や住環境のもとで生活保護費のほとんどを巻き上げられたこともあるし、それに対して苦情を言うと「うちが紹介したわけじゃない」「うちの市に文句があるなら、次の保護費をもらったらそのままいなくなってもらっていいですから」と言い放たれたこともある。

また、住まいも所持金もない状態で相談に行った際は、受給決定がされるまでパンの耳と公園の水でしのぐよう“アドバイス”され、パンの耳が買えるパン屋を教えられたという。

カズヒコさんは「仕事がないと部屋を借りられない、部屋がないと(住所不定で)仕事を見つけられないという負の連鎖」に何度も遭遇してきた。それを断ち切るため、短期間でいいから生活保護を利用したいのに、「最後のセーフティネット」としての役割を果たしてくれない。

「行政は入れるアパートがないから無料低額宿泊所を頼るしかないのかもしれませんが、だったら国が住宅を建てるとか、空き部屋を買い取るとかすればいいと思うんですよ」とカズヒコさんは訴える。たしかに今回も施設に入らないと申請はできないなどというウソをつかれたせいで、問題の法人と関わることになってしまったのだ。

つくづくカズヒコさんの言う通りだと思う。

生活保護費全体の0.4%程度しかない不正受給を「税金の無駄遣い」などと糾弾するよりも、貧困ビジネスに保護費が垂れ流される仕組みを断ち切るほうが、よほど税金の節約になるはずだ。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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