専門分野以外の「雑学」が人生を豊かにする 浅田次郎が語る「日本の運命」<下>

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会社は儲かれば儲かるほど人を雇えばいい。大きくなれば利益も増える。ところが、小説家は驚異的に割に合わない。生産性が自分一人にかかっている。アシスタントさえ使えない。いたとしても、スケジュール調整で一人いればいい。そして、いつまで続けられるか。割と性格は用心深く、万が一のことを考える。今回は初版10万部を刷っているが、来年のは1万部になるかも、といった可能性がよぎる。しかも、体が不調で倒れたら終わりだ。

商売を辞めたのは、ほんの10年ほど前

――商売を辞めたのは50歳を過ぎてからとか。

作家デビューした後もお店を続けていた。間違って商売用の名刺を渡してしまった編集者が、ちょうどバーゲンの最中に店の前に来て、立ちすくんでいたこともあった。

20代で商売を始めて、浮き沈みはあったものの、売り上げが上がってくれば自然に人も増え、取り引き先も顧客も増えてくる。その好循環が頭の中にあって、商売を捨てられない。これで食っていけるというお店を50歳を超えたあとも残していた。辞めたのはようやく10年ぐらい前だ。

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――ご経験から商売にも一家言お持ちですね。

在庫を持つ商売は儲からない。確実に儲かる仕事は手数料で儲けるもの、金利で儲けるものだ。小説家でいちばん儲かっている人の水準なら、経済界にはいくらでもいる。ただ、ひとついえるのは、小説家は在庫を持たないでいいことだ。版元から背負わされない。今でもアパレル在庫の夢を見る。棚卸しの書類が目に浮かんで、なんだこれは、死んでいる在庫だ、目の前が真っ暗になるといった具合だ。

このことは小説には書かない。生々しい自分の経験はロマンがなさすぎる。アパレル関係の登場人物は1回か2回は書いたかもしれないが、本格的には書く気にならないし、また客観的に書けない。小説は今までそれなりに面白がって書いているが、ハイテンションで書いてはいない。シリアスな部分も笑うという面白さではないが、いつも興味を持って昂揚しながら書いている。

(写真:梅谷秀司)

塚田 紀史 東洋経済 記者

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つかだ のりふみ / Norifumi Tsukada

電気機器、金属製品などの業界を担当

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