専門分野以外の「雑学」が人生を豊かにする 浅田次郎が語る「日本の運命」<下>

✎ 1〜 ✎ 96 ✎ 97 ✎ 98 ✎ 最新
拡大
縮小

会社は儲かれば儲かるほど人を雇えばいい。大きくなれば利益も増える。ところが、小説家は驚異的に割に合わない。生産性が自分一人にかかっている。アシスタントさえ使えない。いたとしても、スケジュール調整で一人いればいい。そして、いつまで続けられるか。割と性格は用心深く、万が一のことを考える。今回は初版10万部を刷っているが、来年のは1万部になるかも、といった可能性がよぎる。しかも、体が不調で倒れたら終わりだ。

商売を辞めたのは、ほんの10年ほど前

――商売を辞めたのは50歳を過ぎてからとか。

作家デビューした後もお店を続けていた。間違って商売用の名刺を渡してしまった編集者が、ちょうどバーゲンの最中に店の前に来て、立ちすくんでいたこともあった。

20代で商売を始めて、浮き沈みはあったものの、売り上げが上がってくれば自然に人も増え、取り引き先も顧客も増えてくる。その好循環が頭の中にあって、商売を捨てられない。これで食っていけるというお店を50歳を超えたあとも残していた。辞めたのはようやく10年ぐらい前だ。

上の画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

――ご経験から商売にも一家言お持ちですね。

在庫を持つ商売は儲からない。確実に儲かる仕事は手数料で儲けるもの、金利で儲けるものだ。小説家でいちばん儲かっている人の水準なら、経済界にはいくらでもいる。ただ、ひとついえるのは、小説家は在庫を持たないでいいことだ。版元から背負わされない。今でもアパレル在庫の夢を見る。棚卸しの書類が目に浮かんで、なんだこれは、死んでいる在庫だ、目の前が真っ暗になるといった具合だ。

このことは小説には書かない。生々しい自分の経験はロマンがなさすぎる。アパレル関係の登場人物は1回か2回は書いたかもしれないが、本格的には書く気にならないし、また客観的に書けない。小説は今までそれなりに面白がって書いているが、ハイテンションで書いてはいない。シリアスな部分も笑うという面白さではないが、いつも興味を持って昂揚しながら書いている。

(写真:梅谷秀司)

塚田 紀史 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

つかだ のりふみ / Norifumi Tsukada

電気機器、金属製品などの業界を担当

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT