経済損失3.5兆円!「睡眠時無呼吸症」の裏側 首周りの脂肪があなたを危険に追い込む
そもそもマウスピースもCPAPも、SASに対する対症療法にすぎず、長期にわたるアドヒアランス(=患者自身が病気を受容したうえで治療方針の決定について積極的に参加し、その決定に沿って治療を受ける態度のこと)が必要だ。しかしCPAPの治療を継続できる割合は、半分程度というデータもある。
そうした不具合を解消しようと最近発売されたのが、睡眠前に鼻からチューブを差し込んで気道を確保するナステントだ。使い捨てのために衛生面で問題がなく、持ち運びも便利だ。費用はCPAPの際の通院コストとほぼ同額だが、保険が適用されればさらに安くなる。
本人に自覚がなくても交通事故には厳しい目
SASが注目されるにつれ、交通事故には厳しい目が向けられている。2003年に居眠り運転した山陽新幹線の運転士の場合、「実害は発生していない」「本人に自覚がなかった」として2004年に起訴猶予になった。また2002年に和歌山県で起こった正面衝突事故については、3人が重軽傷を負ったが、運転手が昏睡中だったとして大阪地裁は2005年に無罪判決を下している。
2008年に愛知県で重度のSAS患者が運転する大型トレーラーが交差点に突っ込んで通行人を死亡させた事例でも、1審の名古屋地裁が「SASの影響で眠りに落ちた可能性を否定できず、犯罪とは証明できない」として無罪判決を下している。
しかし同事件は最高裁まで争われ、懲役5年の実刑判決が確定した。また、2012年に関越自動車道で7名を死亡させ、38名負傷の事故を起こしたツアーバスの運転手については、前橋地裁は2014年に自動車運転過失致死罪で懲役9年6か月、罰金200万円という極めて重い判決を下している。
SASに決め手となる治療法がないかぎり、我々はこの病気と付き合わなくてはいけない。そのためには患者への負担ができるだけ軽く、社会の安全が最大に保証されることが求められている。
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