野球界の「縦割り」を打破する大会ができたワケ 「薩摩おいどんカップ」はいったい何がすごいのか

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大学野球は規定により、プロ野球チームとの試合は3月と8月しかできないが、3月に入るとソフトバンク対慶應義塾大、ソフトバンク対東京大、亜細亜大学対読売ジャイアンツなどの対戦も行われた。大学側にとってもまたとない経験を積むことができたし、プロ球団サイドにとっても選手や球団スタッフ採用の観点からも絶好の機会だっただろう。

大学と社会人の試合では、すでに相手の社会人野球チームに就職が決まっている大学生選手が相手ベンチに挨拶に行く姿も見られた。

開催直前になって、鹿児島県から「WBC中国代表に試合の機会を与えてくれないか」という依頼が入った。中国代表は鹿児島県日置市でキャンプを張っていたが、対戦相手を探していたのだ。急遽、中国代表もメンバーに加えることになった。

WBC中国代表(写真:筆者撮影)

日置市の湯之元球場で、中国代表は鹿児島ドリームウェーブや薩摩ライジングなどの社会人チーム、独立リーグの大分B-リングスと対戦した。この試合では、中国代表のスタッフから「写真はいいが動画は撮らないでくれ」と注文を付けられた。WBC実戦前のピリピリした雰囲気が伝わるようだった。

「実は『薩摩おいどんカップ』には、強力な仕掛人がいるんです。亜細亜大学の生田勉監督です。生田先生のご尽力がなかったら、この大会は実現していませんでした」と、小薗氏は語る。

なぜ鹿児島で大会を実施することになったのか

姶良市のビーラインスポーツパーク姶良野球場での試合後に、生田監督を訪ねた。

亜細亜大学の生田勉監督(写真:筆者撮影)

「うちは冬は沖縄県、夏は北海道でキャンプを張っていた。いくら九州でも2月は寒いんじゃないかと思っていたんですが、10年前に鹿児島ですることになって来てみるとご飯はおいしいし、立派な温泉施設もある。気候もいいし、すっかりファンになったんですね。

実は『薩摩おいどんカップ』には、伏線というか、前例があるんですよ。12、3年前から亜細亜大学は夏は北海道釧路市で合宿をしているんですが、当時、釧路市は日本ハムファイターズの夏季巡業がなくなって、街に閑古鳥が鳴いていた。

ホテルの女将さんに『宿泊料いくらですか?』と聞いたら『(お客が来ないから)いくらでもいいです』っていう。結局1泊5800円でおいしいお弁当までつけてくれた。僕はそれを意気に感じて、トヨタ自動車とかENEOSとかHondaとかに声をかけて、釧路市で交流戦を始めたんです。僕たちも街の盆踊り大会に出たり、地元とも交流しました。

これが『タンチョウリーグinくしろ』という夏季の交流戦になった。2022年でいえば、プロ野球は広島東洋カープ、福岡ソフトバンクホークス、社会人はトヨタ自動車、Honda、Honda鈴鹿、エイジェック、JR東日本、大学は亜細亜大、日本体育大、東海大札幌、星槎道都大、東農大オホーツク、八戸学院大が集結して交流戦を行った。市内の旅館や飲食店も潤ったし、釧路市も人口が減って予算がない中で球場の改修もしてくれて、大きなイベントになりました」

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