ただ、ここで立ち止まって考えておいてほしいことがあります。賃上げする会社への転職は、将来的に本当に給与アップにつながるのか?キャリア的にプラスの選択になるのか?ということです。
企業も総人件費をむやみに上げたいとは思いません。仮に賃上げで総人件費が上がるなら、その上昇分の収益は回収できるのか株主からも指摘が入る可能性があります。
そうした中、企業側はいったいどうやってその上昇分を吸収するのか。商品価格の値上げや原価削減で何とかしようと考える企業もあるでしょう。またそれだけでは補えず、年功序列の人事をやめて、人事評価で厳格に査定してメリハリをつけ、総人件費の増加を抑える方向に向かう会社も増えるはずです。つまり業績を連動化して昇給や賞与が抑えられるようにするのです。つまり、賃上げイコール生涯賃金が上がるとは限らないのです。
将来的に得られる給与を考える
一時的に給料が上がっても、その後の昇給は期待しているようにはいかないかもしれないですし、場合によっては上がらない可能性もあります。だとすれば、賃上げをしない会社に留まり、安定した定期昇給を享受したほうが得策という場合だってありえます。
今回の賃上げバブルで動かないと損する……と転職活動するのではなく、その企業が賃上げに対して、どのような人事方針をもっているのか理解してから判断するのが得策です。
たとえば、転職エージェントや転職活動で接する人事部の人に対して、その会社で運用されている人事制度、特に報酬制度の理解度を深める質問を行ってみることです。すると、自分の評価や企業業績によって、どれくらい給与が変化する可能性があるのかを感じられるはずです。
ちなみに、今回賃上げ予定のある会社に勤める前述のSさんが、人事制度への理解を深めていったところ、発見がありました。昨年に改定した人事制度で管理職以上はジョブ型に移行。以前は多くの人が部長になれて、大差ない給与が得られていました。ところが、ジョブ型に移行して、部長になれない人が増加。同世代でも給与に大きな違いが出るようになっていたのです。
一時的な賃上げで生活レベルは改善するものの、将来的に得られる給与は頑張らないと増えないことが理解できました。このSさんのように、賃上げをする会社であったとしても、ただ無邪気に喜ぶのではなく、将来を考える機会と慎重に捉えたほうがいいかもしれません。
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