ただし、中央銀行には、市中の金融機関と違って、1つだけ逃げ道がある。それは利上げを止めることである。利上げを止めれば、資産の時価の下落は止まる。また、金融機関に払う付利(短期金利の水準で金融機関の中央銀行への当座預金へ利子をつける)が少なくなる。
「では、そうすればいいではないか?」と思われるだろうが、そのツケは金融市場から実体経済に移される。インフレである。人々が持っている現金の価値が毀損する。預金資産が毀損する。生活が苦しくなる。そして今、こちらも現在進行形である。
すなわち、リーマンショック後、金融市場の壮大なるバブル崩壊のツケを先送りし、それを中央銀行に量的緩和という形で引き受けさせたツケが、政府財政と中央銀行のバランスシートにたまり、それと同時に、経済においてもインフレによって人々の資産が毀損し、生活が苦しくなっているのである。
壮大なるバブルのツケを政府財政と中央銀行金融政策に肩代わりさせたが、彼らの容量も超えたため、金融市場、実体経済、双方の全体で、これらのツケを今払い始めているのである。
信用収縮とインフレが同時進行する懸念
では、これからどうなるのか。
アメリカのジョー・バイデン大統領やジャネット・イエレン財務長官は、シリコンバレーバンクとシグネチャー・バンクの預金全額保護において、税金はいっさい使わないと明言した。
ということは、今後も税金は使えない。しかし、すべての金融危機は回避しないといけない。預金は全額守り、金融システム危機は起こさない。そのためには、カネをどこかから持ってこないといけない。カネの代わりとなる手段を講じないといけない。
それは、金融規制強化、監督強化、ということがまず1つだろう。となると、金融機関の融資姿勢はとことん固くなる。まさに日本が1990年代後半に見た景色だ。いわゆる住専問題が国会で無駄に紛糾したために、それ以後、本当に資金を入れなければいけない金融機関へ税金で資本注入できなかった。その間に、あれよあれよという間に債権は劣化し、金融システムは破綻寸前となった。
もちろん、これと同じことが起きないように欧米当局は全力で取り組むだろう。そのツケは、必要以上のクレジットクランチ(信用収縮)による不況と、それと同時に起きるインフレとなるだろう。
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