しかし、私や市場関係者にもわかるようなこんな単純なことが、スイス政府やスイス中銀が気づいていないはずはない。だから、彼らはこのリスクを承知で、あえて救済したのだ。
株式価値を残したまま救済したのも、強引に即時救済を決めるのに、クレディ・スイスの株主が反対しないようにするためだった。すなわち、金融システム危機必至という状況は存在しているのであり、それからは逃げられなくなっているのである。だからこそ、金融システム危機を100%起こさないように、すでに最終手段に出たのである。
逆説的であるが、金融システム危機が必至であるからこそ、金融システム危機は起きないのである。危機が起きたときは、すでに破綻必至の情勢になっているだからこそ、危機には絶対にさせないのである。
古典的な破綻であるがゆえに、事態ははるかに深刻
これは、シリコンバレーバンクやシグネチャー・バンクが破綻したアメリカでも基本的には同じ構図である。
しかし、シリコンバレーバンクは、クレディ・スイスと違って例外的な、問題のあった金融機関ではない。普通に預金を預かり、普通にアメリカ国債などで運用していただけなのだ。それが、ごく普通に、当たり前のように破綻したのだ。
いったい何が起きているのか。それは「19世紀型の銀行破綻」である。つまり、単純な預金取り付け騒ぎが起きたのだ。古典中の古典、どんな教科書にも出てくる銀行破綻の典型例が、21世紀の人類歴史上最も進んで洗練されたビジネスピープルであふれるアメリカ・シリコンバレーで起きた。
あまりに単純で原始的な取り付け騒ぎによる破綻。だからこそ、これは、クレディ・スイスよりもリーマンショックよりも、はるかに深刻なのだ。
なぜなら、同じことが、いつでもどこでも、これから日常的に起きる可能性があり、実際起きると見込まれるからだ。
しかし、ジェローム・パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長は、シリコンバレーバンクは「ひどい経営だった」と3月22日のFOMC(連邦公開市場委員会)後の記者会見の質疑ではき捨てた。いったい、どんな酷い経営だったのか。
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