豊田章一郎氏が遺したトヨタにおける「豊田」の意義 強いリーダーシップと集団統治の双方を調和できるか
近年、ソニーグループをはじめとして、CFO(最高財務責任者)がトップになるケースが増えてきた。バブル経済崩壊後の1990年代後半から、資本調達の主軸が間接金融から直接金融へ移り、資本市場との対話が重要になってきたことが最も大きな要因である。
一方、トヨタ自動車は、敢えて技術畑出身者を社長に据えた。自動車産業が100年に一度の変革期を迎え、EVでも戦略を見直し攻勢をかけようとしていることから、同社の経営において、これまで以上に「高度な技術の目利き」が求められるようになってきたからだろう。
豊田章男氏が社長交代に当たり、「私自身は、どこまでいっても車屋です。車屋だからこそトヨタの変革を進めることができたと思う。しかし、車屋を超えられない。それが私の限界でもあると思う。次世代へのバトンタッチの土台ができあがってきた」と話したように、新社長には「豊田社長と異なる資質」が求められている。
ステージが変われば社長も変わる、という経営の鉄則を象徴するトップ人事である。ただし、新米社長となる佐藤氏には章男氏のようなカリスマ性はまだない。章男氏が代表権のある会長に就任することで、「見えざる手」の力を発揮し続けることだろう。
スター性や貴さを感じられる人による支配
「カリスマ」とは、大きな存在感を示す人である。だが、学術的な定義を念頭に置き使っている人はそれほど多くないだろう。データサイエンスが注目される昨今だが、古典に見る温故知新の知恵は、人の核心を衝いている場合が多い。
古代ギリシア語で「神の恵みの賜物」の意味する言葉である「カリスマ」を学術として論証したのは、社会学者のマックス・ヴェーバー (ウェーバー)。彼は、「支配の3類型」として、合法的支配、伝統的支配、カリスマ的支配を明示した。合法的とは規則に基づき選ばれる(例:官僚)、伝統的は既存の秩序に基づいて任命される(例:天皇陛下)。そして、カリスマ的はスター性や貴さ(尊さ)を感じられる人(例:「経営の神様」と言われた松下幸之助氏)による支配である。
このうち、合法的支配、伝統的支配が成り立つのは比較的平穏な日常的状況である。そのような状況から脱しなくてはならない、変革しなくてはならない非日常的状況では、カリスマ的支配が有効となる、と説いた。
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