豊田章一郎氏が遺したトヨタにおける「豊田」の意義 強いリーダーシップと集団統治の双方を調和できるか
「社長」――。
この役職名を聞いて、どのようなイメージを持つだろうか。日本においても、CEO(最高経営責任者)という呼称が普及してきたこともあり、「社長」は平成どころか昭和の香りがしないでもない。
昨年来、筆者が交流してきた元「社長」たちが次々とお亡くなりになっている。お別れの会に参列する頻度が増えてきた。その中でも、大々的に報じられたのが、日本を代表する企業となったトヨタ自動車の元会長で経団連会長も務めた豊田章一郎氏の訃報だった。ここであらためて、トヨタ自動車における「豊田」の意義を考えてみたい。
大きな括りで、日本企業は世代交代の時期を迎えたと実感する。それを象徴しているのが、トヨタ自動車の豊田章一郎・元会長(元経団連会長)の逝去(2月14日)と1月26日に発表された14年ぶりとなる社長交代人事(4月1日付)である。佐藤恒治執行役員(53)が社長兼最高経営責任者(CEO)に昇格し、豊田章男社長(66)は代表権のある会長に就く。
社長交代発表は章一郎氏命日の19日前
なぜ、この時期(1月26日)に重大発表をするのか、というサプライズ感が強く、さまざまな臆測を呼んだ。ただ、表立って言及されていない「臆測」がある。それは、豊田家の跡取り息子・章男氏の父への思いであろう。
社長交代の発表が行われた日は、章一郎氏の命日となった2月14日から遡れば19日前に当たる。この頃、豊田章一郎氏とどのようなコミュニケーションがとられていたかは定かではないが、章男氏は父の死を覚悟しなくてはならない状況にあったと思われる。すでに名誉会長となり、第一線からは退いていたとはいえ、豊田家当主の容体悪化を見て、章男氏は後継人事を公にし、父を安心させようと配慮したのではないだろうか。
「ファミリービジネス(同族企業)とは、創業家が強い影響力を持つ企業」とする日本的ファミリービジネス観からすれば、トヨタ自動車は日本最大、最強のファミリービジネスと見られている。もっとも同社は、すでに11代社長のうち5人、12代目となる佐藤氏を含めれば、その半分(6人)が同族外の人である。その間に時折、豊田家出身者が社長、会長を務めた。「ハイブリッド」を自動車だけでなく経営でも展開してきた。
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