豊田章一郎氏が遺したトヨタにおける「豊田」の意義 強いリーダーシップと集団統治の双方を調和できるか

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2015年の東京モーターショー、車いすで会場を回っていた豊田章一郎氏
2015年の東京モーターショーでは車いすに乗って会場を回る姿が見受けられた(写真:Tomohiro/OhsumiBloomberg)

一代ごとに新事業を創出せよ、とする豊田家の家訓「一代一業」を実践するため、豊田章一郎氏は住宅事業を起こし育てた。本業の自動車事業では、アメリカに現地工場を建設するなど、グローバル化を積極的に推進し「世界のTOYOTA」の地位を不動のものにした。会長時代はサラリーマン社長たちを率いてハイブリッドカーという戦略商品を生み、育てる。そして経団連会長にも就任し、財界活動でも頭角を現した。

これだけ大胆な意思決定を行い、パワフルな行動力を発揮できたのは、創業家出身であったからではないだろうか。その行動パターンは、章男氏にも受け継がれた。国内外の発表会で派手に振る舞い、賛否両論はあるが、オウンドメディア「トヨタイムズ」を徹底活用するSNS時代の新たなマーケティング・広報戦略に力を入れ、自ら主役を務めた。

章一郎氏は章男氏とは異なり、そのパワフルさを自ら顕示しようとはしなかった。常に謙虚で、言葉数が少なく、人当たりも良い。筆者個人の感想としては、失礼ながら「貫禄はあるものの、話しやすい、いいおじさん」だった。

「いいおじさん」も社内では、やはり特別な存在感があった。何が特別かと言えば、言葉では十分説明できない豊田家のオーラだった。ある豊田家に関係する会に出席した時、章一郎氏が夫人を伴って姿を現すと、役員クラスの人たちが全員総立ちし、スタンディングオベーションで迎えたのだった。まさに、王室対応である。

トヨタのそれは「不条理」でなく「見えざる手」

このソフトパワーを「不条理」と捉えるか、アダム・スミスではないが、「見えざる手」として評価し、活用するかで企業の行方は変わってくる。トヨタ自動車は「見えざる手」を上手に使ってきたのではないだろうか。これこそ、ファミリービジネスの勝ちパターンである。

「見えざる手」という良き効用を発揮するには非常に重要な前提がある。それは、トップが愛される、好かれる人物であるという絶対的条件だ。顧客、従業員、株主、社会などのステークホルダーがサポーター、ファンとなり、トップを応援したくなるようなオーラが必要なのだ。強権だけを発動する専制君主では、面従腹背、忖度の組織が発生する。

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