豊田章一郎氏が遺したトヨタにおける「豊田」の意義 強いリーダーシップと集団統治の双方を調和できるか

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「しようがない」の辞書的意味は、「他に良い手段や方法がない」。だが、現実的には、因果関係が論理的でなくても実行せざるをえないときに口にする場合が多い。この理屈を、ファミリービジネスで世襲を行っている企業や老舗に当てはめてみよう。そこでは、次のような光景が見られないだろうか。

ファミリービジネスの従業員たちがアフターファイブに会社の近所にある居酒屋に集い、次期社長を肴にして話が盛り上がっている。

数名の口から同じ言葉が。

「社長の息子(娘)が継ぐらしいよ。うちの会社、大丈夫かな」

その後、酔いも回り、ますます後継者話に花が咲く。「じゃー、そろそろ帰ろうか」となったとき、「しようがないな。(創業家出身である)社長の長男(長女)だからな」と妥当な結論とも言えぬ、あいまいな納得性が従業員たちの間に生じる。

この割り切れない不条理と思われる部分は、今のところ、AI(人工知能)がもっとも不得意とする解決課題であろう。ところが、現実を生きる人間は、不条理を上手にくぐり抜け「世渡り」している。

「君臨すれども統治せず」が、出るときは前面に

ところが、ジャーナリズム性が高いメディアほど、「しようがない」で片づけられてしまう現象については手厳しい。「しようがない」ことをしている企業、経営者を叩く。世襲経営批判は、その典型例だろう。

この現象を説明するうえでも、トヨタ自動車のトップ人事を事例にするとわかりやすい。これまで同社のトップに就任した豊田家出身者は、比較的優秀な人が多かった。トヨタ自動車に入社せず、非ファミリービジネスの他社を選んだとしても、かなり優秀なトップ、エグゼクティブになっていただろう。豊田章一郎氏もその1人だった。

豊田章一郎氏を「天皇陛下」に例えるジャーナリストもいるが、むしろ筆者は、女性ではあるがイギリスの故・エリザベス女王に似た存在だったと見ている。社長、会長を経て、名誉会長になってからは「君臨すれども統治せず」という基本姿勢を貫きながらも、出るときには前面に出ていくという存在であり、グローバル展開においても強いソフトパワーを発揮したからだ。

イギリス国旗であるユニオン・ジャックのデザインは、王室を核に世界に広がる英連邦諸国と強い絆で結ばれていることを意味している。同様に、「豊田」が世界の“TOYOTA”の象徴的存在として君臨していると言えよう。

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