「部下が全然動かない」と嘆く上司の超残念な盲点 仕事を「任せる」のと「丸投げ」はまったく違う

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一方で、指示を受けた部下にも守るべきことがあります。それは、「腑に落ちるまで内容を確認する」ことです。

「的確な指示」とは、双方向のコミュニケーションです。「上司から部下」への一方通行ではなく、「上司から部下、部下から上司」の相互通行によって成り立つのです。上司の指示がわからなければ、部下は指示の内容を理解するまで、聞き直す必要があります。

とくに中間層の社員は、「上司から受けた指示を、さらに部下に伝えるポジション」にいます。課長であれば、部長からの指示を係長に伝えるポジションになります。ということは、上司の指示が腑に落ちていなければ、部下に対して「的確な指示」を出すことができません。

なぜ「重大事故」が「何もなかった」ことになるか

現場で大きなトラブルが起こったとします。

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大企業でよく言われているケースでは、課長には、「大きな事故が起きたけれど、現場で対処できる」と伝わります。部長には「現場で事故があったが、それほど大事には至らなかった」と伝わります。

役員には「現場で些細な何かがあったが、すでに解決済み」と伝わり、社長には「今日は、何も、変わったことはない」と伝わります。

大きなトラブルがあったのに、社長の耳に届く頃には「何もなかった」ことになってしまう――これではまるで「伝言ゲーム」(列の先頭から、耳打ちして言葉を伝えていく遊び)です。

人を介するほど不確実性が増すようでは、権限を委譲することはできません。

・指示を出す側………「部下が動きやすいように、具体的かつ的確な指示を出す」
・指示を受ける側……「指示の内容を理解できるまで聞き直す。偽りのない報告をする」

上司と部下の間に「双方向のコミュニケーション」が成立しなければ、「仕事を任せる」ことも、「仕事を任される」ことも難しいでしょう。指示の内容がクリアになっているから部下は動けるわけですし、部下からの報告に偽りがないからこそ、上司は正しい判断ができるのです。

出口 治明 立命館アジア太平洋大学(APU)学長

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でぐち はるあき / Haruaki Deguchi

1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2005年に同社を退職。2008年にライフネット生命を開業。2017年に代表取締役会長を退任後、2018年1月より現職。『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『人類5000年史Ⅰ』(ちくま新書)、『「全世界史」講義Ⅰ、Ⅱ』(新潮社)、『仕事に効く教養としての「世界史」Ⅰ、Ⅱ』(祥伝社)、『本の「使い方」1万冊を血肉にした方法』(角川oneテーマ)、『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、『ゼロから学ぶ「日本史」講義Ⅰ』(文藝春秋)など著書多数。

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