刑事ドラマの金字塔「太陽にほえろ!」誕生秘話 刑事からの視点でテーマが「憎しみ」から「愛」に

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日曜夜8時といえば、裏には難攻不落のNHK大河ドラマがありましたが、放送からわずか4カ月で、大河ドラマ「源義経」を視聴率で逆転。「青春とはなんだ」は多くの視聴者に支持され、私にとって初めての大ヒットドラマになりました。

これ以降、「青春」シリーズとして、「これが青春だ」「でっかい青春」「進め!青春」と続き、さらには「俺たちの旅」「俺たちの朝」「俺たちの祭」の「俺たち」シリーズへと繋がることになります。

「太陽にほえろ!」が語り継がれる理由

「太陽にほえろ!」以前の刑事ものは、主に犯人側のドラマを描くものでした。主役は刑事でも、物語は犯人がどういう事情で犯行に及んだかという犯人側の特殊な事情を描くもので、刑事はいわば狂言回しに過ぎませんでした。

「太陽にほえろ!」は、刑事の側から描いたドラマです。犯人側ではなく刑事側から物語を構築することで、テーマが“憎しみ”から“愛”に変わる。他人を信じ、他人を愛する刑事を描くことで、その心情や優しさ、温かさ、人間愛、命の大切さを訴えることができました。

そのヒントになったのは、スティーブ・マックイーン主演の映画『ブリット』(1968年)です。撃ち合いで射殺した犯人の亡骸に自分の上着を掛けてやる刑事を見て、こういう優しさのある刑事像を描きたい、と。さらに、青春ものの要素を取り入れ、新人刑事の成長ドラマにして、その人物の成長を縦軸にしました。

「七曲署」の刑事部屋にはボス役の石原裕次郎を父親としたホームドラマのような雰囲気もありました。それぞれの刑事には家族や恋人がいて、生活がある。そういう刑事の背景までを描いたことで、視聴者は彼らに共感し、親しみを持ってくれました。

新人刑事の殉職も、ショーケン(萩原健一、マカロニ)が「もう新米刑事がやることがなくなった。辞めさせてくれ」と言ってきて、ダメだって言ったら、「殉職するよ」と。だったら思いっきり殉職を利用しようと思いました。今でこそ素晴らしいアイデアとして受け入れられていますが、当時はシリーズの途中で主役が死んでしまうなどありえないことでした。視聴者を飽きさせないという意味でも、新人刑事の殉職は最大の見せ場となり、殉職劇をやるごとに視聴率も上がっていきました。

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