宇多田ヒカルの名曲で露呈した台湾社会の一断面 「First Love」を歌った台湾芸能界の大御所と社会のギャップ

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「First Love」を歌う白冰冰さん(写真・白冰冰さんのInstagram、@bingbingpai0517から)
台湾のベテラン歌手が歌った1曲が、現地で思わぬ反響を呼んでいる。1999年に歌手の宇多田ヒカルさんが発表した「First Love」。当時、CD販売も100万枚近い大ヒット作だが、これは台湾でもヒットし、そして同時代の人たちの思い出の1曲となっている。それから四半世紀近く後に歌われたこの曲が、台湾社会の実状をはからずも浮き彫りにした。それはどういうことか。

 

動画配信サービスNetflixのオリジナル作品ドラマとして2022年11月24日から配信された「First Love 初恋」は、台湾でも配信され視聴ランキングで3週連続1位を獲得。ドラマで使用されている「First Love」(宇多田ヒカルさん、1999年リリース)もヒットチャートで1位になり、年末年始の日台間の芸能ニュースはこの話題で持ちきりだった。

この盛り上がりにいろんな意味で一役買ったのが、今では台湾芸能界の大御所とされる白冰冰(パイ・ピンピン)さん(67)だ。台湾東部の花蓮で開催された大みそかのカウントダウンライブで、同曲を日本の昭和歌謡的なテイストで歌い上げると、これに世論はヒートアップした。それはなぜか。

中高年の思い出をぶち壊した?

まずは台湾の中高年層から。日本と同様、台湾の中高年層も宇多田さんの歌を青春時代に聞いている。宇多田さんのメロディーは、人生でいわば一番輝いていた時代を彩った名曲中の名曲と捉えられており、それを昭和歌謡テイストで歌った白さんの行為は「思い出をぶち壊した」と感じられたのだ。

もう一方、中高年より上の世代では、受け止め方ががらりと変わる。白さんのコアファン層のこの世代は白さんに拍手喝采。「さすがの歌唱力、日本にも進出した実力を発揮した」とし、「今時の何を歌っているのかよくわからない歌手よりも実力があって素晴らしい」と褒めたたえたのだ。

もっとも白さんは、日本と太い絆を有する人物だ。1975年頃から日本の芸能界に進出し、映画「カラテ大戦争」に出演するなど日本の芸能界にも足跡を残している。そして、かつて「巨人の星」「空手バカ一代」など昭和スポ根漫画の巨匠とされる漫画原作者、故・梶原一騎と結婚し(後に離婚)、子どもももうけた。

その白さんの子どもには、言語に絶する悲劇が襲っている。白さんが順調に台湾芸能界での地位を築いていた1997年、台湾全土を震撼させた事件が起きた。白さんの娘・白暁燕(パイ・シャオイェン)さん(当時17歳)が誘拐され、犯人による虐待の後に惨殺された。

犯人らは殺害後も逃走を続け、警官隊と銃撃を繰り返すなど台湾中を恐怖に陥れた。あまりの凶悪さに、当時の李登輝総統が「犯人らを発見次第、問答無用で射殺せよ」と命令を下したほどだった。

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