宇多田ヒカルの名曲で露呈した台湾社会の一断面 「First Love」を歌った台湾芸能界の大御所と社会のギャップ

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死刑判決が下された陳の刑が執行された後、白さんと支援者らは「白暁燕文教基金会」を設立。犯罪のない安全な社会の構築や、被害者へのケアなどの法律制定に尽力する。また、殉職など不幸に見舞われた警察関係者の子女らに奨学金を助成するなど、社会運動などにも積極的に関わるようになった。

そのようなこともあり、白さんは、警察のトップに上り詰めて政界に転じた侯市長と盟友ともいえる関係を築く。本人は支持政党を明言していないが、たびたび国民党の応援に参加。次第に同党の宣伝に関わるようになっていくのだった。

2018年、後にリコールされる当時の韓国瑜・高雄市長に依頼され、白さんは同市の魅力を伝えるイメージ大使に就任。ポケットマネーでPR動画を制作するが、人々の反応は今回と同じように物議を醸した。

日本になじみ深い台湾芸能人の政治志向

前任の陳菊市長時代には、若者に人気の五月天(メイデイ)を動画に起用したこともあり、高雄のイメージはスタイリッシュで若々しさが出ていた。「高齢者しか共感しないようなもので高雄をPRしようとするのか理解できない」といった声が、若年層を中心に上がったのである。

一方で、国民党や韓氏の支持者からは「台湾的で実に素晴らしい。この世話焼きな感じがいい」と主張していたが、韓氏人気にブレーキを掛けたことは間違いなく、白さん自身も本件についてしばらく口を閉ざすようになってしまった。

ところで、今日では台湾の芸能人も日本と同様、個人の支持政党を明確にして応援することがある。しかし興味深いのは、かつて日本に進出し、日本人になじみの深い芸能人の多くは、中国との統一に前向きで国民党を支持する人が多いという点だ。

自身のルーツが中国にあるいわゆる外省人(戦後に中国大陸から台湾に来た人たち)であることで、統一や国民党支持なのはわからないでもない。しかし、台湾本土にルーツを持つ本省人と呼ばれる人々もこれに同調してしまう状況があり、台湾政治や社会の複雑さを表している。

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