宇多田ヒカルの名曲で露呈した台湾社会の一断面 「First Love」を歌った台湾芸能界の大御所と社会のギャップ

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そうなる理由の1つは、国民党による一党独裁が長く続き、人々は中国との統一(中華民国が統治する)を大前提に教育されてきたことが挙げられる。その後の民主化した台湾社会にどこか違和感を覚え、そのあまり国民党を支持してしまうというものだ。

また、高度経済成長や戒厳令下の社会秩序が、現在に比べて成長かつ安定したものに感じられ現実を直視できないというのもある。いわゆる「あの頃はよかった」と口にしてしまう状況だ。

権威主義体制の下、かつて「白色テロ」と言われるほど誰もが、いつでも当局から逮捕される危険がある社会が正常なはずではないのは明確だが、自身の「常識」とのギャップが大きすぎて現実に向き合えない。台湾のさまざまなギャップが、そのまま政治にも反映された状況にあるといえる。

「親日」と「中台」で変わる意識

さらに国民党統治下では、メディアはほぼ同党や外省人グループに支配され、芸能人も外省人や同党支持者に占められていた問題もある。本省人と比べ、外省人は現在、台湾社会で少数派になった。

とはいえ、そのような状況下の台湾芸能人が日本に進出したのだから、中国との統一支持が当たり前だったり、国民党支持だったりするのは当然の成り行きかもしれない。

日本に進出する台湾芸能人は、ほとんど親日であることは間違いない。だが、それと中台問題でどのような意見を持っているかは違う。人々の国際情勢の考え方は時代によっても変化するので、半世紀前の常識が今では非常識に映ることもあるのだ。

白冰冰さんが歌った「First Love」と人々の反応から台湾社会のギャップを感じずにはいられない。

高橋 正成 ジャーナリスト

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たかはし まさしげ

特に台湾を中心に、時事問題をはじめ、文化、社会など複合的な視座から問題を考えるのを得意とする。現役の翻訳通訳者(中国語)。

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