【後編】「母の愛情不足」に悩んだ45歳彼が見た光 カウンセリングに行けなくなった彼が感じた事

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「そのとき、死にたいと思ったことは間違いじゃなかったんだと感じたんです。『普通の人の数倍は、がんばってきた』とも言われて、生きなくてもいい、死んでもいい、と自分には聞こえました。なんだか安心しました。

同時に、死にたい気持ちを我慢ばかりしていたことにも気づいたんです。『持ってはいけない気持ちはない』とも言われて、その通りだと思いました。ひきこもっていた半年間は、自分の気持ちを感じるままに任せていました。それからは、不思議と死ぬことを考えなくなりました。

いまは、がんばって生きようと思わないから死にたいとも思いません。せっかく死んでいないのだから、もうちょっと人生を楽しんでもいいのかなと思うんです。もう一度、教師をしたい。自分と同じ境遇の子どもを、学校で助けてあげたい」

再び働きはじめた村木さん

『ルポ 虐待サバイバー』(集英社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

彼はそう言って、はにかんだ笑顔を見せた。

それから数カ月後、村木さんが中学校の非常勤講師として働きはじめたと、ケースワーカーから報告があった。

徐々に仕事のペースを増やしていこうと考えているのだという。

「せねばならない」義務ではなく、「やりたいこと」ができたのだろう。

これ以降、彼はカウンセリングに訪れていない。がんばり過ぎず、我慢し過ぎず、素直に気持ちを感じながら、生きているのだろうと思う。

植原 亮太 精神保健福祉士・公認心理師

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うえはら りょうた / Ryota Uehara

1986年生まれ。精神保健福祉士・公認心理師。汐見カウンセリングオフィス(東京都練馬区)所長。大内病院(東京都足立区・精神科)に入職し、うつ病や依存症などの治療に携わった後、教育委員会や福祉事務所などで公的事業に従事。現在は東京都スクールカウンセラーも務めている。
専門領域は児童虐待や家族問題など。

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