人には人それぞれ、死のあり方がある。人は生き方を選ぶことはできても、死に方は選べない。安らかに満足して最期の瞬間を迎えることもあれば、そうではないこともあるだろう。
しかし、どんな最期を迎えようとも、人としての尊厳が守られ、弔ってもらえれば、穏やかに旅立てるのではないだろうか。その最後の大切な時間をつくりだしている人がいる。「死化粧師」の宿原寿美子さんだ。故人の顔と体をきれいに整えて遺族の心のケアをするのが彼女の仕事だ。
1000人以上の死化粧を手がけて
「ご遺体の顔に被せられている白い布をとるときは、今でも緊張します」
これまで1000人以上の死化粧を手がけてきた宿原さん。亡くなったときの状態によって処置の仕方はまったく異なるという。
「比較的きれいな状態で安らかなお顔をされている方は、在宅でケアマネジャーさんが入って定期的に訪問看護や訪問介護を受けていた方が多いですね。慣れ親しんだ自宅で看取りができるとご家族の満足度も高いです。ここ数年は、コロナ禍で面会もままならない状況が続きましたから、医療機関で余命宣告されたご本人の最後の1〜2週間を自宅で看取るご家族も増えてきています」
しかし、家族のもとで穏やかな最期を迎えられるケースは多くない。日本における2021年の死者数は約145万人で戦後最多。1日約4000人が亡くなり、自宅死が当たり前だった50年前から死に場所も多様化して、施設や医療機関で亡くなる人が8割を占める(※)。自宅外での介護生活や闘病生活の末に亡くなった故人の姿を見て、後悔したり、自責の念を抱える遺族もいる。
宿原さんは、そうしたご遺体に対しても、ときに話しかけながら、お体を整え、メイクを施している。そうすることで遺族の悲しみを軽減し、元気だった頃の故人を思い出してもらい、安心して見送ってもらえたらと考えているのだ。
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