「1000人の死化粧」をした人が見てきた人生の最期 遺体から声なきメッセージを受け取って

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宿原さんが使っているメイク道具の一部(撮影:今井康一)

また、母親と息子さんが同居していたにもかかわらず、自室で亡くなっている息子さんが2週間後に発見されたケースもあったという。

「その息子さんは、もともと昼間働いていたのですが、仕事を辞めてから引きこもりがちになったそうです。生活リズムも昼夜逆転になって、母親が寝静まった深夜にカップラーメンなどを自分で食べていたので、親子が顔を合わせることもなくなっていました。だから、息子さんが自室で亡くなっていることにお母様はまったく気がつかなかったそうです。私がご自宅に入ると強烈な腐敗臭があったので、なぜ気づかなかったのだろうかと不思議に思ったのですが、お母様は認知症を発症されていたのです」

このような場合、ご遺体の処置にも通常以上の費用がかかる。そのため、宿原さんは直接依頼を受けたお姉様とお母様に、予算のことも含めてどのように見送りたいかをゆっくり話し合ってもらったという。

「亡くなった男性は、お姉様の息子さんたちが小さかった頃、よく可愛がってくれたそうです。甥っ子さんたちも弟さんのことが好きだったから、顔を見てお別れしたいと、お姉様からご相談を受けました。とはいえ、弟さんはすでに臭いや腐敗がありましたから、私に死化粧を依頼するのをためらわれていたのだと思います。そこで、私のほうから提案して、復元専用のメイク用品とエアブラシで弟さんのお顔をきれいにし、臭いのケアも行いました。

通夜や葬儀式は行わず、家族だけで火葬場でお別れをする直葬の形式を取りました。甥っ子さんたちは弟さんの顔をしっかり見届けて最後のお別れができたので、あのときは本当にホッとしました」

こうしたケースも時折あるが、多くの場合は、できるだけご家族と一緒に、もしくはご家族が見ている所で死化粧を施しているという。そうすることで自然に家族が故人に話しかけたり、思い出話に花が咲いたりする。その中で悲嘆が軽減される可能性もあるという。

「あるご高齢の女性が亡くなったときは、『お洒落な母だったんです』とおっしゃる娘さんとその弟さんのお嫁さんと一緒にメイクをして、旅立ちのお着替えも手伝ってもらいました。お孫さんたちが痩せ細ったおばあちゃんの姿を見てショックを受けないようにと、お気に入りだったお洋服を着せて、髪にカーラーを巻くのも一緒にやっていただきました。ビール好きだったお母様に缶ビールをお供えしたりと、ご家族の深い愛情を感じました」

看取りを後悔する人は少なくない

誰しも大切な人は納得のいくかたちで看取り、見送りたいと思うもの。しかし現実は、それが叶わないことも少なくない。

「やはり最期の瞬間にそばにいてあげられず、看取りができなかったこと、生前に故人との会話が少なかったことを後悔される方は多いです。一昨年、私の母が84歳で急逝したのですが、会話の最中に私の目の前で母は意識をなくし、その数日後に帰らぬ人となりました。いつかはと思ってはいたものの、突然その状況を目の前に突きつけられると時間を追うごとに、もっと話をしておけばよかった……と後悔が湧いてきます」

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