今さら聞けない「CSR(企業の社会的責任)」超基本 「会社として取るべき対応」をわかりやすく解説
かつて、「メセナ活動」が盛んだった時期があります。メセナ(mécénat)とはフランス語で「芸術・文化を保護・支援すること」を指し、ローマ帝国で文化擁護政策を行った政治家マエケナスの名が語源といわれています。例えば、優秀なバイオリニストを育てるために高価なバイオリンをプレゼントする、音楽祭を開催する。あるいは地域住民が芸術に触れる機会を増やすために、ホールを建てる。こうした文化・芸術活動に対する企業の支援活動です。
また、「フィランソロピー活動」というものもあります。フィランソロピーとは、ギリシャ語の「フィロス(Philos:愛)」と「アントロポス(Anthropos:人類)」を語源とする言葉で、メセナよりも広い意味での社会貢献活動を指します。寄付や慈善活動など、地域や社会にとってプラスになることを目的とした活動です。
任意の「善行」ではなく「責任」
CSRはこれらの活動と同様に捉えられることもあるようですが、本質的に別のものです。
企業がメセナ活動やフィランソロピー活動を行うかどうかは任意であり、企業活動とは無関係な文脈で成り立ちうる一種の「善行」ともいえます。一方で、CSRはその用語が示すとおり、企業の「責任」です。責任である以上対応が求められるという点において、決定的な違いがあります。
フィランソロピーやメセナ活動が悪いことだといっているわけではありません。ただ、それらとCSRを混同すると、CSRが企業にとって任意の「善行」であると誤解される危険があります。
CSRは企業自身に関わる社会課題解決の議論です。例えば企業活動において大量の二酸化炭素や有害な廃棄物を排出する、サプライチェーンをたどっていけば外国の山奥で幼い子どもを働かせている。そうした、環境や社会に悪影響を与えることをやめるといったことをしっかりやっていこう、ということです。他方、自らの事業活動とはまったく関係のない社会課題についてまで、企業に責任を負わせるものではないと本書では捉えています。
企業が積極的にCSRに取り組む場合、そこにはいくつかの理由があります。
1つ目はコンプライアンスに近い発想です。時代の変化を受け、「いまはお金儲けをするだけではなくて、人権や環境問題にも取り組まなければいけない」と考えて、行動に移す。
2つ目は、より積極的な姿勢です。CSRに取り組むことによって、自社の株価が上昇する、顧客からの信頼を得られる、優秀な人材を採用しやすくなる。だったらやってみよう、という方向性です。