今さら聞けない「CSR(企業の社会的責任)」超基本 「会社として取るべき対応」をわかりやすく解説

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3つ目が、損をしないためです。企業がCSR課題に取り組まなければ、投資家からは「ダイベストメント(投資している株式や債券、投資信託等を手放したり、融資している資金を引き上げたりすること)を行わざるをえない」とプレッシャーがかかります。消費者側からは「あのお店には行かない」「あの商品は買わない」といった不買運動が起こります。こうした経済的なリスクがあるからこそ取り組む、という側面もあります。

ただ、本来的に考えれば、前記のように、自らの活動に起因して環境、社会への影響が生じうる以上、そもそもCSR対応も自らの責任において行うべきものであり、ペナルティーがあるから、あるいはメリットがあるからという、いわば損得勘定でやるものではないはずです。

CSRは「評判の問題」なのか?

従前は、そして、現在でもなお、CSRに関するリスクは多くの場合「レピュテーションリスク」と捉えられてきました。

「社会課題対応は法的な問題ではなく、単なる“評判”の問題である。お金を稼ぐことが本業である以上、CSRに取り組んでいる余裕はない。評判が下がる程度なら問題ないのではないか」という考え方です。

しかし現在は、そのリスクが単なる「評判」を越えて顕在化してきています。法で罰せられなくても、社会的なペナルティーを受けるわけです。

わかりやすい例では、消費者の不買運動です。企業のCSR上の問題が拡散されることで、「あのチェーン店では食べない」「あのブランドの服は着ない」といった人たちが出てきます。

また、採用面でも影響してきます。人権侵害や環境破壊が大きく取り沙汰されることで、人々の意識も変わっていきます。CSRに取り組んでいない企業には入社しないという人は、決して少なくありません。また、そのような企業では、既存の社員からも見限られて離職要因となる等、リテンション(人材の維持)の観点からも問題となりえます。

資金調達の面でもリスクが存在します。

機関投資家がCSRを推奨する団体に加盟している。あるいは国連が定める責任投資原則に署名している。自分で「責任ある投資をする」と言っている以上、体現しなければいけません。

投資家は、当然、企業の評判を見ています。例えば企業の活動上で人権侵害が行われているとなればダイベストメントの可能性もあり、ロシアやミャンマーなどでは実際に起きています。CSRを軽視することが、資金調達ができなくなるという大きなリスクにもつながりかねないのです。

CSRに対応しないことのわかりやすいリスクが、裁判所や非司法機関に訴えられることです。日本企業ではまだ起きていませんが、世界的には事例があり、その勝敗はともかく、企業としては、いずれにしろ訴訟、またはこれと同様の対応をしなければならず、大きな負担になりますし、それらの判断が国際的なスタンダードに基づく場合には、法的拘束力の有無にかかわらず、まったく無視もできないでしょう。

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CSRに対応しないことのわかりやすいリスクが、裁判所や非司法機関に訴えられることです。日本企業ではまだ起きていませんが、世界的には事例があり、その勝敗はともかく企業としては、いずれにしろ訴訟またはこれと同様の対応をしなければならず、大きな負担になりますし、それらの判断が国際的なスタンダードに基づく場合には、法的拘束力の有無にかかわらず、まったく無視もできないでしょう。

CSRへの取り組みについて、「違法でなければ制裁もないのだから、守らなくてもいいだろう」と考える企業があります。これは日本だけではなく、欧米でも同様です。以前であればそれでもよかったのかもしれませんが、ここまで見たように、現在ではCSRを軽視する企業に対して、リアルなリスクが表面化しています。企業として取るべき対応はどんなことなのか、考えてみる必要があるのではないでしょうか。

柴原 多 西村あさひ法律事務所弁護士

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しばはら まさる / Masaru Shibahara

1996年、慶應義塾大学法学部卒業。1999年に弁護士登録(東京弁護士会)。

企業の法的課題(とくに資金調達関連を含む)の解決および紛争案件を担当。近時は「地方創生とSDGs」(『事業再生と債権管理No.172』2021年4月5日号、金融財政事情研究会)、「SDGsと企業法務の課題」(「法と経済のジャーナルAsahi Judiciary」)等SDGs関連の執筆、および「事業の再稼働とサプライチェーンの再構築へ」(セミナー)、「CSRと企業活動との整合性に関する法的考察」(セミナー)等、新しい経営環境への対応に従事。

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湯川 雄介 西村あさひ法律事務所弁護士

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ゆかわ ゆうすけ / Yusuke Yukawa

1998年、慶應義塾大学法学部卒業。2000年に弁護士登録(東京弁護士会)。スタンフォードロースクール修了。日本弁護士連合会 国際人権問題委員会幹事。ビジネスと人権ロイヤーズネットワーク運営委員。

ミャンマーのヤンゴン事務所の代表として日本企業の進出支援や、法整備支援業務に従事。近時はビジネスと人権の領域で広く企業の取り組みを支援。著書に『詳説 ビジネスと人権』(共著、現代人文社)、『円滑に外国人材を受け入れるためのグローバルスタンダードと送出国法令の解説』(共著、ぎょうせい)。ほか、『NBL』(商事法務)等で記事を執筆。数多くのセミナーにて講師を務める。

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根本 剛史 西村あさひ法律事務所弁護士

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ねもと たけし / Takeshi Nemoto

2003年、慶應義塾大学法学部卒業。2005年に弁護士登録(第一東京弁護士会)。2015年にニューヨーク州弁護士登録。

複雑なM&A案件を多数手掛け、近時は、ビジネスと人権、インパクト投資等の案件にも携わる。また、プロボノ活動そのほかの社会貢献活動を積極的に行っている。著書に『NPOの法律相談[改訂新版]』(共著、英治出版)。近時の活動として、「『責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン』実装ウェビナー」(セミナー、2022年10月13日)、「プロボノ・シンポジウム~日本におけるプロボノを解き明かす~」(シンポジウム、2021年11月)等。

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