仏教に救われた「LGBTQの僧侶」が修行で得たもの 紅白歌合戦の審査員も務めた西村宏堂さんの生き方

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西村さんが考える平等の本質は、シンプルだ。それは、誰に気兼ねすることなく、自分をちゃんと大事にして生きること。

「自分を優先させることを、恥ずかしいとかワガママだなんて思う必要はないです。あなたは何ができるか、どんな人であるかということは平等に扱われることと関係ない。みんながあらかじめ持っているものが平等ですから」

現在の西村さんは、そんな自らのアイデンティティ、アイデア、ファッションなどをアートとして表現している。

従来の肩書にとらわれないからこそ

自ら仏門に飛び込み、教えを受け取ったことは、彼の個性と人生をさらに開花させることになる。

僧侶として学びを深める一方、メイクアップアーティストとしてもミス・ユニバースの国内外の大会のメイクを担当するなど順風満帆な活躍をしていた最中の2019年、LGBTQの当事者として講演してほしいという話が舞い込んできたのだ。

(撮影:今井康一)

「浄土宗のLGBTQについてのシンポジウムで、当事者の体験談を話してほしいという依頼でした。当時、公の場では自分が当事者であることは語ったことがなかったし、僧侶であり、大学の教授である父の立場もあるし、どうするべきかと悩みました。

でも、せっかくのシンポジウムに当事者がいなければ、現実味が薄いし、本物ではなくなってしまう。私が語らなきゃならないと思い至って出演を決めました」

このイベントをきっかけに、西村さんの元には、LGBTQ活動家としての依頼が増えていった。メディアやイベントへの出演、講演会への登壇、インタビュー、書籍……。

これまで味わった辛酸の数々、人生の暗黒期を乗り越えた経験談はもちろん、自らの思考と仏門で学んだ知識や経験を織り交ぜて語る。痛みや挫折を乗り越えてきた彼の言葉は優しさと説得力があり、人々の心を揺さぶった。

さらに、2019年には全世界で大ヒットしていたアメリカ発リアリティ番組「QUEER EYE(クィア・アイ)」にも出演して注目を集めた。SNSでは、僧侶姿ながら、メイクやハイヒールもまとう斬新で艶やかなファッションは、彼の個性やメッセージを際立たせ、世界中にファンを生んだ。

「これまでの人生がつながった気がしました。さまざまな経験や技術はもちろん、悲しかったことや苦しかったこと、嬉しかったこともすべて。僧侶やメイクアップアーティストなど1つの職業だけだったら、私のメッセージはみんなに伝えられないのではないか?でも同性愛者であり、僧侶の資格を持っていて、メイクやおしゃれが好き。そんな私だからこそ、伝えられることがあることにも気づけました」

現在の状況を予想して、3つの肩書を得たわけではない。ただ、自分に正直に生きて、自分にしかできないことを突き詰める道中で、自分らしい大輪の花が咲いたのだ。

仕事も人生も、唯一無二の自分を大切にすること、自分にしかできないことを突き詰めて花開かせること。それは、この先も彼自身の命題であり、人々に伝えたいヒントでもある。

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