世界では勝てない「美食大国日本」に足りないもの フランス料理の世界大会で優勝に必要なのは?

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そのほかの時間はすべて、味の精度を上げていく試作のために割かれる。週2日ずつ浅草のキッチンラボにメンターの長谷川幸太郎氏が足を運び、指導している。曰く、料理の組み立ては相当よくなってきたが、味の詰めがまだ甘いと言う。「一口で人を驚かすような、突き抜けたうまさがなければ勝てないんです。まだそのレベルには到達していない。なんとか、そこを突き抜けてほしい」と長谷川氏。

1月上旬に現地入りし、合宿を実施

そしていよいよ、日本チームは、1月9日、フランスへ向けて出発する。リヨンから1時間半ほどのところに、冬季は休業になるオーベルジュがあり、そこで本選の前々日まで合宿生活を送るのだ。

メンバーは7人。それほど多くの人が出場者である石井氏を支えているのだ。理想としては、出発前までに味の調整を目的とした試作を続け、レシピを完成させる。そして、合宿生活に入ってからは、本番同様の持ち時間5時間半のタイムトライアルを繰り返す。

繰り返し述べてきたが、今年は、日本チームは本気で勝ちに行っている。体制として大きく変わったのは、これまで必ずつけてきたフランス人コーチを廃し、浜田統之氏をコーチに据えたことだ。コーチは舞台の袖に立って、睨みをきかせ、指示を出す。会場全体からも目立つ存在であり、おっ、今年の日本チームは変わったなということが、外からでもよくわかる。いわば、純日本チーム、サッカーW杯の「森保ジャパン」と同様の体制だ。

このほかにも、これまで記してきたように、本番と同様のキッチンラボをスポンサードしてもらい、石井氏は自らが勤めるアルジェントのシフトからは抜け、準備に専念してきた。強豪国と同じような体制をとり、できる限りの外堀を埋めた。

では、これまでどうしてボキューズ・ドールで頂点を獲れなかったのか。

石井氏、浜田氏、長谷川氏に、その理由を聞いた。まず石井氏は、「ベタベタな日本を出しすぎたから」と分析する。フランス的な世界観の中に、わずかににじみ出る日本的な、日本人にしかできないエッセンスをひそませるくらいが、いちばん塩梅がよいが、日本色が前面に出ていたからというのが理由だ。

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