「映画で人生が激変」インドの少年に起きた奇跡 映画「エンドロールのつづき」に見る希望の物語

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さらに劇中では、監督の人生を変えてくれた映画に対する感謝とオマージュをささげている。例えばサマイが映画に目覚めた直後のシーンは、世界初の映画と言われているリュミエール兄弟の『ラ・シオタ駅への列車の到着』のオマージュであり、そこには画面の奥から手前に向かって走ってくる列車が駅に到着するさまが映し出されている。

それがモノクロの画面から、カラーの画面に変わるという演出となっているが、これはまさにサマイの人生が映画によって開かれていったという暗示のようでもある。その他にも数々の名作映画のオマージュシーンが散りばめられているため、それを探し出すのも楽しい。

そこから“映画の世界”に入り込んだサマイの日常は、映画を中心に鮮やかに彩られていく。この世界に広がっている“光”はどうやったら捕まえられるのだろう? 緑色のガラス瓶を通して景色を見るとどうなる? フィルムはどうやってスクリーンに映るんだろう? 友だちたちと一緒になって“映画”に近づこうと工夫をこらし、自分たちで答えを見つけようと試行錯誤を繰り返す子どもたち。

時には大人たちに迷惑をかけるようなこともやらかしてしまうが、それでもグジャラート州の美しい自然に溶け込むように遊びまわる子どもたちの姿は、その映像美もあいまって、いつしか観客の心をしあわせな気持ちで満たしてくれる。

エンドロールのつづき
サマイは列車の乗客にチャイを売って父親の仕事を手伝う(写真:ALL RIGHTS RESERVED ©2022. CHHELLO SHOW LLP )

3000人近い少年たちのオーディション

本作の主人公となるサマイという役は、監督の故郷であるグジャラート州の子どもであることが絶対条件だった。この地方の方言を話すことができて、都会の子どもたちとは違う無邪気さがあり、そして広大な大空の下で暮らす感覚を肌で知っている。

そんな子どもたちを探し出すべく、3000人近い少年たちのオーディションが行われ、その中から、グジャラート州ヴァサイ村に住む少年のバヴィン・ラバリが選ばれた。

彼がスクリーンに向けるまなざし、豊かな表情を観ているうちに、いつしか観客に、映画への愛情を呼び起こさせてしまうような逸材である。

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