生体間移植とは、生きている人の健康な臓器を摘出して、必要とする患者に移植することで、腎臓や肝臓、肺、小腸で行われている。腎移植にいたる病気は、多いものから糸球体腎炎、糖尿病性腎症、腎・尿路疾患だ。
日本移植学会が公開する『ファクトブック2021』によると、生体腎移植の生着(臓器が移植者の体で機能する状態)の状況は、1983~2000年で1年生着率が93.0%、5年生着率が81.9%だったのに対し、直近の2010~2019年では98.7%、93.1%に上昇している。
理由は、新しい免疫抑制薬が導入されたことで、以前に比べて拒絶反応が起きにくくなったことなどが挙げられる。一方で、新たな問題も出てきたと前出の石田さんは言う。
「近年は、慢性腎臓病や糖尿病のよい薬ができたこともあって、腎不全になる年齢が上がっています。結果的に高齢者での移植が増え、高齢者の夫婦間での移植も普通に行われるようになりました」
一定のリスクが伴うドナー側
何より生体間移植ならではの問題も少なくない。例えば、生体間では健康な人の体にメスをいれる以上、一定のリスクが伴うことは否定できない。
あるデータによると、ドナーの腎機能は提供前の60~70%になると報告されている。術前の評価をクリアした健康体のドナーでも、提供後は生涯にわたって人間ドックなどで生活習慣病のチェックが必要となる。
肥満や喫煙の有無など、先の櫻井さんが通うドナー外来のような、ドナーに対する包括的なケアが重要だ。実際、そうしたドナーのリスクから、生体腎移植という選択をしない家族もいる。
それ以前に、患者とその家族の「心」により一層、慎重に見極めなくてはならない。簡単にいってしまえば、「ドナーに腎臓の提供を強制する」という事態が起こりかねないということだ。
「たとえドナー候補者が健康体であっても、自発的な提供意思がしっかりあるかを慎重に判断する必要がある」と石田さん。「本当はドナーになりたくないのではないか」といった懸念が少しでもあった場合、心療内科の診察や移植コーディネーターの面談を複数回入れ、時間をかけて入念に真意を確認しているという。
都内の医療機関に勤める移植コーディネーターも、「自分がドナー候補になっているとは知らずに、連れてこられる人がたまにいる」と実情を打ち明ける。
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