夫から親から…生体腎移植を選んだ「家族の決意」 世界ではナンセンス、なぜ「献腎」は進まない?

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「苦しむ妻を見て、何としてもドナーにならなくては、と思った」と櫻井さん。そこから約半年間は毎日2万歩を歩き、食事制限を徹底、8キロの減量に成功した。医師からドナーになることを許可されたことで、妻も移植に前向きになり、2019年7月、夫婦間の生体腎移植が行われた。

手術の翌日、再会した妻は涙を流しながら夫の手を握った。櫻井さんは「もう済んだよ。心配いらない。あなたと娘に出会えた人生は最高だ。やはり僕の腎臓でよかった。僕の使命だった」と伝えた。

執刀医を務めた東京女子医科大学病院泌尿器科の石田英樹さんは、「いい腎臓を奥様に提供されましたね」と櫻井さんに話したという。入院期間は4泊5日で済んだことが自信につながった。

「退院の翌日には1万歩歩いた。(小さな傷で済む)腹腔鏡手術とはいえ痛みはあった。ただ、それよりも妻に腎臓を提供できたという達成感と自信から、自然と心と体が動いた」と櫻井さん。今回の取材の前にも「3時間テニスをして汗を流した」という。70代になった現在も毎日の暮らしはアクティブだ。

櫻井さん夫妻
櫻井さん夫婦。移植後は旅行する機会が増えた。「車中泊」に挑戦するほど体力が回復しているという。写真は山中湖花の都公園にて(写真:櫻井さん提供)

ドナーになっても控除はない

ドナーになったからといって税金が控除されたり、何らかのサービスが受けられたりするようなメリットはいっさいない。むしろ、現在は3カ月に1度「ドナー外来」を受診して、血液検査と尿検査で健康状態を観察してもらう必要がある。それでも、「体重は(提供した当時から)3キロ戻ったので、気を引き締めないといけないね」と笑う。

取材中、櫻井さんが何度も口にしたのが「自然体」という言葉だった。

「家族が病に伏した。自分が臓器を提供することは、ごく自然体で何のためらいもなかった。妻に腎臓を提供したことは自慢する話でもないし、隠す話でもない。どなたにもオープンに話をしている」

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