夫から親から…生体腎移植を選んだ「家族の決意」 世界ではナンセンス、なぜ「献腎」は進まない?

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「話だけ聞こうといわれたから一緒に来たという人や、夫にあげるつもりでいたけれど、やっぱりあの人にはあげられないといってやめた人もいます。親子だから、夫婦だから絶対もらえるというわけではなく、ドナー候補者は、“あげたい”という気持ちと“怖いという気持ち”で揺れ動いています」(移植コーディネーター)

やはり、脳死下、心停止下での移植が必要である、ということだ。

腎移植数

「本来は、脳死下や心停止下で亡くなられた方の臓器を活用させてもらうことが人道的、かつ合理的です。世界的に見ても生体間の臓器移植をナンセンスと考える国もあり、献腎移植こそが“臓器移植の王道”といえるでしょう」(石田さん)

腎臓単独だと候補に挙がりにくい

日本臓器移植ネットワークに登録した腎臓の移植待機者は1万人を上回り、15年待ちとなっている。しかも、「脳死下だと腎臓単独は、肝腎・膵腎が優先されるため候補者に挙がりにくい。また、摘出から移植されるまでの時間が短いほうが腎臓へのダメージが少ないため、ドナーが発生した地域と同一都道府県内が優先されるという実情もある」(前出の移植コーディネーター)

そうした背景を理解し、順番が回ってくるまで待ち続けるのは、容易なことではない。

国内で34万人におよぶ透析患者のなかには、透析を最期の治療だと思い込んでいる人も少なくない。事実、腎移植より透析のほうが負担は大きく、治療が長くなれば心血管やさまざまな合併症は避けられない。

一方で、腎移植は脳死下だけではなく、心停止下でも譲り受けることができる。30年ほど前に心停止下のドナーから腎臓を譲り受け、現在は医師として働くのは、腎臓内科医で、東京医科大学八王子医療センター腎臓病センター腎臓内科の山田斎毅さん(55)だ。

「移植をしたらめちゃめちゃ元気になったんですよ。だから、もっと深くこの治療に関わりたいと、社会人で医師を目指しました。僕が移植を受けたころと違って移植医療も変わってきています」

(5日目『iPS細胞を駆使、実用化は近い?再生医療の最前線』)

両角 晴香 フリーライター

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もろずみ はるか / Haruka Morozumi

福岡県生まれ。広告制作会社を経て2010年にフリーライターに転身。中学1年生の時にIgA腎症を発症。18年3月、夫の腎臓を移植する手術を受けた。現在、夕刊フジなどで執筆。

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