「臓器移植」施行25年でもいまだ増えぬ厳しい実態 移植できた人は一握り「待機中」に亡くなる人も

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臓器移植のシンボルカラー、緑にライトアップされた東京タワー(写真:公益社団法人 日本臓器移植ネットワーク提供)
脳死下での臓器提供を可能にした「臓器移植法」の施行(1997年10月)から四半世紀が経った。だが、臓器の提供数は毎年100件前後にとどまり、2020年、2021年はコロナ禍の影響もあってさらに減っている。
日本では110万人が事故や病気で亡くなり、その1%弱に当たる1万人程度が脳死の状態になると推定される。脳死の原因(原疾患)は、くも膜下出血や脳出血、脳梗塞、低酸素脳症、頭部外傷などで、いつ自分に降りかかってきてもおかしくない病気だ。
臓器提供がもっと浸透すれば、助かる命も増えるはず。なぜ臓器移植が日本では増えないのか。5日連続特集「臓器移植とニッポン」1日目は、その現状を探った。
2日目:なぜ巨費でも米国へ?「臓器移植」日本で進まぬ訳
3日目:割り切れる?「脳死→臓器提供」決断した家族の本音
4日目:夫から親から…生体腎移植を選んだ「家族の決意」
5日目:iPS細胞を駆使、実用化は近い?再生医療の最前線

58歳でくも膜下出血を発症、夫の決断

北陸地方に住む五十嵐利幸さん(72歳)はドナー(臓器提供者)家族だ。今から10年ほど前、妻(当時58歳)の臓器提供を決断した。現在は全国各地で講演活動などを行い、ドナー家族としての思いを伝えている。

「今の医療技術では、移植以外助からないという人たちが大勢いるけれど、なかなか提供者は増えません。このままだと日本の移植医療は停滞したままです」

移植に関してはつらいこともあったけれど、臓器を移植した人たちに喜んでもらっている。「僕も、大切な人の最後として、やってよかったと思う」と言う。

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「そのことを、多くの人に発信していきたい」

五十嵐さんの妻は運転中にくも膜下出血を発症し、電柱に正面衝突した。連絡を受けて病院に駆けつけると、妻はICU(集中治療室)に入っていた。だが、医師からはこう告げられた。

「脳幹部の大量出血で、私たちの力では救命はもう無理です。早くて6時間、体力が持って2~3日です……」

それは「死刑宣告を受けたみたいなものだった」と五十嵐さんは言う。

妻に最後に何をしてあげられるのか――。ずっと考えていた五十嵐さんは、あることを思い出す。亡くなる数年前、夫婦でたまたま臓器移植を扱ったテレビ番組を見ていたとき、妻は唐突に「(臓器移植を)私はしたいと思っている」と話し出したという。

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