医師が解説「心肺停止は死とは異なる」という真意 ドラマで心電図の波が平らになるというのは…
心肺停止。この言葉の意味は、一般の方にはちょっとよくわからないかもしれません。心臓が止まってるし、肺も動いてないんだよね、一体どういうこと? それなら生きてないのでは? 多くの人がそう思うでしょう。
先月、安倍晋三元首相が銃撃されるという衝撃的なできごとがありました。日本中が震撼し、耳目を集めたこのニュース。その過程でも、心肺停止という言葉が使われていたことは、記憶に新しいと思います。
実は、日本の法律では、心臓や肺が止まっても、死んだことになりません。そう言われると、さらに話がわからなくなってくるかもしれませんね。この記事では、心肺停止と死の関係について書こうと思います。
ありえないような本当の話
びっくりされるかもしれませんが、日本の法律では「死」は明確に定義されていません。ありえないような本当の話です。少し詳しく説明しますと、日本の法律では、“医師が死であると判定すれば死”ということになっているのです。
テレビドラマや映画などでは、病院のベッドで死の淵にある人はたいてい心電図の装置をつけています。そして突然、波が平坦になり、病室にピーッという音が響きわたったりする。そのことが死を意味するのだ、という暗黙の了解が共有されるシーンです。
皆さん、そういう光景を何度も見たことがあると思います。あれが間違っていると言いたいわけではないのですが、テレビなりに誇張されています。
心電図の波形が平らになったとしても、それが直ちに死を意味するのではありません。薬物の投与や心臓マッサージの処置をしたり、またAED(自動体外式除細動器)のような機器を用いたりして、波形が戻ることも少なくありません。
なにより波形が元に戻らなかったとしても、医師が、その心電図の状況も含め、瞳孔の具合や呼吸音などの情報を収集して、総合的な判断から「死の判定」をするまでは、人は死なないということです。少なくとも法律のうえでは――。
死が日本の法律に明文化されていない、という話に戻りましょう。
え、それ違うでしょ、臓器移植法が決まったときに細かく規定されたはずでは!? そう反論したくなった人は、事情に明るい人です。
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