「臓器移植」施行25年でもいまだ増えぬ厳しい実態 移植できた人は一握り「待機中」に亡くなる人も

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日本人も移植に関心がないわけではない。2021年に行われた「移植医療に関する世論調査」(内閣府)では、移植医療に「関心がある」が全体では65.5%と過半数を超えている(「関心がない」は30.9%)。

世論調査自体の回答率が半分程度のため、この数値どおりにとらえるわけにはいかないが、それでも3人に1人は関心があるということになる。

一方、家族で話す機会があるかどうかについては、43.2%が家族と「話をしたことがある」と回答し、56.2%が「話をしたことがない」と答えている。臓器を提供したいかしたくないかという質問では、「提供したい」が全体で39.5%、「提供したくない」が24.3%、「どちらともいえない」が35.8%だった。

前出の朝居さんは「提供する・しないにかかわらず、家族で話す機会を持ってほしい」と訴える。

「もしかしたら自分や家族が腎不全や心不全になって、移植を待つ身になることもあるでしょうし、反対に事故や病気で突然、脳死状態になる可能性もある。脳死下での臓器提供は、自分の人生のエンディング(最終章)に関わってくることでもあり、“どう生きたいか”にもつながります」(朝居さん)

移植を待つ側の葛藤

1995年4月~2022年6月に移植を受けた人の数は6827件だ。ドナー数より多いのは1人のドナーから複数の臓器が提供されることが多いためだが、移植できた人はほんの一握りだ。

移植を希望してJOTに登録した人の数は2021年12月末で1万5677人に上る。最も多いのが腎臓で1万3738人、次に多いのが心臓で923人、以降、肺477人、肝臓332人、膵臓197人……となっている。希望者はJOTに登録すればすぐに移植が受けられるわけではなく、ドナーが現れるのを待たなければならない。JOTによると待機期間は心臓では約3年半、肺が2年半、肝臓が約1年半。腎臓になると平均で15年ぐらいにもなる。

待機中に亡くなった人の数は、心臓では501人(移植できた人の数は628人)、肺は733人(同657人)、肝臓は1549人(同715人)、膵臓は73人(同461人)、腎臓は4658人(同4131人)となっており、肺や肝臓、腎臓では移植できた人よりも、亡くなっていく人が多い。

移植を待つ側もつねに葛藤を抱えている。

東京都内の大学病院で腎臓や肝臓の移植の支援を行う、認定レシピエント移植コーディネーターは、「誰かが亡くならないと移植ができない。“人の死を待つ”人間にはなりたくないという叫びを聞きます」と話す。

コーディネーターになったばかりのころ、肝移植を待つ子を担当した。

「待機者の順番で2位までいったのですが、結局、順番が来なくて生体移植を受けました。しかし、術後の経過が悪く脳死移植を希望したのですが、待っている間に感染症にかかって移植ができなくなってしまった。最後は出血が止まらなくて亡くなりました」

ほかにも、腎移植を待っている高齢女性が認知症になって移植を断念せざるをえなくなったり、家族から「先日、亡くなりました」と報告を受けたりしたこともある。

「あんなに心待ちにしていたのに――。もっと自分にできることはなかったか、何度も、何度も思いました」と言葉をつまらせる。

自分の死をどう迎えるか。その延長線上にある臓器移植や移植医療。この特集では日本の抱える問題点は何か、移植が進まないボトルネックは何なのか。その深層を探っていく。

参考:『臓器移植の誤解をとく いのちをつなぐ贈りもの』(吉開俊一 木星舎)

(2日目『なぜ巨費でも米国へ?「臓器移植」日本で進まぬ訳』)

山内 リカ 東洋経済オンライン 編集者
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