「睡眠に悩む日本人」の腸内で何が起きているのか 腸と脳でつくられるセロトニンはそれぞれ異なる

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ここからいえるのは、通常マウスは無菌マウスと比べ、材料を多く持っているにもかかわらず、ドーパミンをつくる作用をコントロールしているということです。

ここからは推測ですが、一般にドーパミンは快楽物質と呼ばれます。たとえば人間の場合、ドーパミンが多すぎるとお酒やギャンブルなど、何かに依存する傾向が表れるといいます。私たちはそれをセロトニンによって抑えています。ですから、何かの理由で抑えているとしか考えられないのです。

神経に関する物質は多すぎても少なすぎても問題です。今回の研究でわかったのは、そこに腸内細菌がかかわっている可能性があるということ。腸内細菌の「本音」についてはまだまだ研究の余地があります。

さて、ほかにも複数の物質で通常マウスと無菌マウスとの間に違いがみられています。たとえば記憶や神経の働きを手助けし、統合失調症との関連があるセリンや、アルツハイマー病との関連があるとされるN-アセチルアスパラギン酸もそうです。

もし腸内細菌が脳内の物質と関係がないなら、両者に違いが現れるはずがないのです。腸内細菌の全貌が明らかになるのは、まだまだ先の話かもしれません。

「GABA」をとることで眠りが深くなる

ここでよい眠りにも役立ち、希望の持てる話をご紹介しましょう。ストレスを軽減し、血圧を下げたり、リラックス作用をもたらしたりすることで知られる「GABA(ギャバ)」をご存じでしょうか。γ-アミノ酪酸というのが正式名称で、アミノ酸の一種です。体内にもある成分ですが、チョコレートやココアの原料となるカカオやトマト、発芽玄米などに多く含まれています。

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最近の研究で食品からGABAをつくり出す乳酸菌やビフィズス菌が発見され、ここにも腸内細菌がかかわっている可能性が出てきました。

これまではGABAを含む食品やサプリメントを外からとっても、先にも挙げた血液脳関門(BBB)を通過できないといわれてきましたが、腸管神経系の作用で間接的によい影響を与える可能性があるという報告もあります。

このGABAがもたらす効果は、睡眠の質を上げてくれるところです。人が眠りにつくと、一晩のうちに「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」のサイクルを数回繰り返して朝を迎えることをご存じの人も多いでしょう。

ノンレム睡眠は脳を休める深い眠りの状態であり、レム睡眠は高速眼球運動(Rapid Eye Movement)の頭文字から名付けられたことからわかるように、眼球が動く、つまり眠りが浅くて体が眠っている状態です。

研究ではGABAをとることで、通常に比べてノンレム睡眠の時間が長くなる→眠りが深くなり、そして寝つきもよくなるというデータが出ており、すこやかな眠りを求める人にうってつけの成分だといえそうです。

辨野 義己 一般財団法人「辨野腸内フローラ研究所」理事長

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べんの よしみ / Yoshimi Benno

国立研究開発法人理化学研究所名誉研究員、十文字学園女子大学客員教授、日本微生物資源学会名誉会員。1948年、大阪府生まれ。酪農学園大学獣医学部卒業。東京農工大学大学院獣医学専攻科を経て、理化学研究所に入所。2009年、同所バイオリソースセンター微生物材料開発室室長を経て同所科技ハブ産連本部辨野特別研究室特別招聘研究員。2021年3月末退職後、現在に至る。1982年、東京大学農学博士学位授与。半世紀にわたって腸内細菌の分類と生態に関する研究を続けている。

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