工事開始から6年「立石再開発」なかなか進まぬ訳 東京屈指の飲み屋街を変える大胆な計画

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これからがどうなるかは地元の人たち次第だが、取材で感じたのはAさんと準備組合間も含め、関わる人たちの間での齟齬や理解不足があることだ。準備組合の段階では情報公開は求められていないため、どちらの言い分が正しいかはジャッジすることはできない。

だが、Aさん以外にも齟齬を語ってくれた人がいる。話を聞いた地元商店主の1人は葛飾・金町で行われた再開発を見学に行き、既存店舗よりも狭い店舗への移転や、管理費など従前になかった出費などの愚痴を聞き、近隣の他の店主にその話をしたという。

「でも、相手はそんなはずはないと言うのです。区役所の人がわざわざ説明に来て、新しいビルに入っても今までと変わりませんと約束してくれた、役所の人が嘘を言うわけがない、狭くなるはずはない、と」

「今までと変わらない」わけがない

再開発ではもともと所有していた権利と新しい建物内の権利は等価で交換されることになっている。だが、これまでの危険だとされる古い木造の店舗と安全になったとされる地域の新しい高層建築物では不動産の価値は異なる。価値は同じだとしても、それは「今までと変わりません」といえるだろうか。

また、新しいビル内に店舗あるいは住居として床を持つとなると管理費や修繕積立金などが必要になってくるが、これまで自分の土地・建物で家賃を払うことなく商売してきた人たちにその点が理解できているようには思えない。Aさんも額の提示はおろか、説明すら満足に受けていないと主張する。

一般の新築マンションの場合も完成近くまで管理費、修繕積立金が明示されないことがあると考えると、額が提示できないのは理解できる。だが、そうした支払いが必要になることは早めに説明する必要があるだろう。

こうした齟齬や理解不足を高齢商店主の勘違い、あるいは、理解しようという努力不足と取るか、再開発を推進する人たちの説明不足と取るかは立場によって異なる。だが、民間が行う再開発ではあるものの、多額の公金が投入され、長らく区も関わってきた公共性の高い事業である。できるだけ、地域の多くの人達の声を聞き、その人たちに利するものを目指すというのがあるべき姿のはず。

幸い、再スタートというタイミングでもある。きちんと地権者、地元の人たちの声に耳を傾け、この街らしい姿を検討していただきたいものである。

(*)損失発生時に再開発事業者が自らリスクを取る旨の取り決めを結んでいる場合は別

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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