ご存じ「この紋所が目に入らぬか」の決めゼリフで知られる水戸黄門の家紋は、葵の御紋である。この葵の御紋がおそれ多いのは、将軍家である徳川家の家紋が葵の御紋だからだ。
一般には、単に「葵の御紋」と呼ばれているが、正確には「三つ葉葵の御紋」である。その名のとおり、3つのハート型の葉が組み合わされた家紋だ。
葵というと代表的なのは、タチアオイ、トロロアオイなど、背の高い種類である。これらは正真正銘、アオイ科の植物だ。
ところが、三つ葉葵のモデルとなっている葵は、これらとは違うのである。
三つ葉葵のモデルとなっている葵は、フタバアオイという植物である。実は、これはアオイ科ではなく、ウマノスズクサ科の植物なのだ。見た目も、タチアオイが2メートル近い高さで鮮やかな花を咲かせるのに対し、フタバアオイは、山林の地面に生える小さな植物である。花も1センチあまりの茶褐色の小さな花で、お世辞にもきれいな花とはいえない。
そもそもフタバアオイには、植物学的にも謎が多いという。たとえば、フタバアオイの花の花粉をどんな虫が運んでいるのか、よくわかっていない。普通の植物はハチやアブが花粉を運ぶのに、フタバアオイの花粉を運んでいるのはヤスデだという説や、キノコバエが運んでいるという説があり、まだよくわかっていないそうだ。
こんな地味な花を家紋に採用している国家君主など、私は徳川家以外に知らない。
田畑の雑草が家紋に用いられたワケ
ところで、日本の家紋に用いられている十大紋は「鷹の羽、橘、柏、藤、おもだか、茗荷、桐、蔦、木瓜、かたばみ」である。
このうち、オモダカとカタバミは雑草なのだ。そして、両方とも武将たちにたいへん人気があった。
なぜ武将たちは、このような、取るに足らぬ雑草を家紋にしたのだろうか。
オモダカは田んぼに生えている雑草で、生命力が強い。葉の形が矢じりに似ていることから「勝ち草」とも呼ばれたため、ゲンを担いで家紋に用いられたのだという。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら